盗撮教師の告訴なぜできぬ 迷惑防止条例に「公共の場」の“壁”
2008/12/04 10:40更新 産経新聞
福島県の県立高校で進路指導を担当していた男性教諭(43)が、進路指導の最中に複数の女子生徒のスカート内を盗撮していたことが発覚した。当然、刑事告訴されるものと思われたが、県教育委員会は「告訴できない」。その理由は「立件が難しいことが分かったため」という。盗撮という明らかな反社会的行為にもかかわらず、なぜ刑事責任を問うことができないのか−。(小野田雄一)
県教委はすでに11月21日付でこの教諭を懲戒免職処分としている。
県教委によると、元教諭は今年9月上旬〜11月上旬、同校の進路指導室で、自分が座っている椅子(いす)の正面に女子生徒を立たせ、ひざの上に置いた携帯電話のカメラでスカート内を盗撮していた。被害に気づいた女子生徒が別の教諭に相談、盗撮が発覚した。被害者は延べ10人にのぼり、元教諭は「申し訳ないことをしてしまった。生徒に謝りたい」などと盗撮を認めたという。
盗撮が発覚した時点の記者会見で、県教委は刑事告訴も視野に入れて調査するとしていた。しかし懲戒処分を発表した2回目の記者会見では、「警察と相談した結果、(刑事告訴しても)立件が難しいことが分かった」とし、告訴は取りやめる考えを明らかにした。
盗撮を罰することが難しいとはいったい、どういうことなのか。
これについて福島県警の捜査幹部は「罪を問える法がない。立件したくてもできない状態」と説明する。
この幹部によると、盗撮を罰するための法律は一般的に、各自治体の定める「迷惑行為等防止条例」と刑法の「建造物侵入罪」の2つ。しかし今回の事例は「どちらも適用できない」という。
「迷惑行為等防止条例は、公共の場で他人の下着などを盗撮することを禁じている。しかし“公共の場”とは“誰もが自由に出入りできる場所”の意味。今回は盗撮した現場が学校内の進路指導室で、誰もが自由に出入りできない以上、公共の場にはあたらない」という。
では建造物侵入罪ではどうなのか。
「同罪が適用されるのは“正当な理由なく侵入した”場合。たとえば学校の女子トイレなどに侵入して盗撮した場合は適用できるが、今回は実際に現場で進路指導を行っており、正当な理由がなかったとは言い切れない」と話す。
この幹部は「条例を作成していたときには想定していなかった盗撮方法で、一言でいえば法にすき間があったということ。はがゆさはある」と苦々しい表情を浮かべた。
同様の事例はこれまでにもある。奈良県で平成18年、救急車内で男性警察官が女性の下着を盗撮した問題では、救急車内は“公共の場”には当たらないとして立件は見送られた(別の盗撮事件で、刑事罰を受けている)。これを問題視した同県は、迷惑行為等防止条例を改正し、現在は公共の場以外でも盗撮をした場合は立件できるようになった。ただし、こうした条例改正の機運は全国的に高まったわけではなく、今でも多くの自治体で、公共の場以外での盗撮を立件することができないままだ。
福島県警の幹部は「盗撮で立件できない事例が相次いだ場合は、条例改正も視野に入れる必要が出てくるだろうが今は改正は考えていない」と話している。
盗撮をしても刑事罰を問われない“法のすき間”がある現状は、一刻も早く改める必要があるだろう。
今回のような盗撮でも、立件できる可能性があると主張する専門家もいる。
刑事事件を中心に扱っているアトム東京法律事務所(東京都)代表の岡野武志弁護士は、「進路指導室は学生を指導するための部屋で、盗撮をするための部屋ではない。実際に指導をしていたとしても、進路指導室の本来の使い方をしておらず、“正当な理由なく侵入した”と解釈できる。建造物侵入罪での立件は可能ではないか」と指摘している。