診療報酬不正受給 理事長ら起訴 生活保護食い物 制度の隙間狙う

診療報酬不正受給 理事長ら起訴 生活保護食い物 制度の隙間狙う
2009年7月22日7時56分配信 産経新聞

 奈良県大和郡山市の医療法人雄山会「山本病院」を舞台にした、生活保護受給者の診療報酬不正受給事件で、奈良地検は21日、詐欺罪で同病院の理事長、山本文夫容疑者(51)と、事務長の大杉龍太郎容疑者(57)を起訴した。本来は行政と連携して福祉を担うべき立場にいた山本被告らが起こしたとされる、福祉を食い物にした犯行の実態を検証した。(蕎麦谷里志)

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 ≪全額が「公費」≫

 起訴状などによると、山本被告らは入院している生活保護者の診療報酬明細書(レセプト)を改竄(かいざん)するなどして、実際には行っていない手術をしたかのように装い、診療報酬約170万円をだまし取っていたとされる。起訴された以外の案件を含めるとだまし取った額は約1千万円になるとされる。

 なぜ、生活保護者が利用されたのか−。厚生労働省の担当者は、「生活保護受給者の医療費は公費で全額支給されるため取りっぱぐれがない」と指摘する。生活保護受給者の医療費は、すべて公費(国が4分の3、地方自治体が4分の1)でまかなうことが生活保護法で定められている。

 さらに、通常の保険診療なら、患者が加入する健康保険組合などを通じて医療費や診療内容が患者側に送付されるが、生活保護受給者への通知規定はなく不正が発覚しにくい仕組みになっている。福祉事務所から支給される「医療券」を提示するだけで診療を受けられる制度となっていることも、患者に医療費への関心を向きにくくさせている。山本被告らは、これらの制度を知り尽くした上で犯行に及んだ可能性がある。

 病院関係者によると、山本被告らは生活保護者向けのマンションに出向き、入院を勧誘するなど、“営業活動”もしていたという。

 ≪カルテ改竄!?≫

 山本病院は不正診療請求防止のため、奈良県が行っていた検査も巧妙にすり抜けていた。

 各自治体は生活保護法に基づき、毎月1回レセプトを点検することになっている。チェックの内容は「生活保護受給者か」「病状と診察内容が妥当か」「過去に同じ治療を繰り返していないか」などだ。不正が疑われる場合は立ち入り検査を行い、カルテとの照合なども行う。

 しかし、今回の事件では肝心のカルテまで改竄されていた疑いが持たれている。心臓カテーテル手術では「ステント」という医療器具が使われるが、捜査関係者などによると、山本被告らは架空の手術を「なんちゃってステント」と呼び、カルテには目印として黒色で印を付けていた。一方、実際に手術したカルテには赤色で印を付け、自分たちだけが区別できるようにしていたとされる。

 ≪言葉巧みに…≫

 貧困問題に詳しい日本女子大学の岩田正美教授は「生活保護受給者は社会的交際範囲が小さい人が多いため、正しい判断を下すための情報が極端に少ない。権威のある人に言葉巧みに言われればだまされやすい」と話す。

 病院関係者によると、今回の事件でも、事務長の大杉被告が生活保護の入院患者に診察なしの手術の了解を得ようとしたケースで、患者が断ると、「お前みたいな者はどこにもいくところないやろ。嫌なら退院しろ」などと退院を強要。拒み続ける患者を最寄り駅に放置したこともあったという。岩田教授は「弱者を守るという立場に立てば、地域のソーシャルワーカーを拡充するなど、行政が医療機関を監視するという視点が必要だ」と指摘している。

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