【フォーカス】ベテラン教員に不安要因 増える懲戒処分 宮城
2010年5月25日7時56分配信 産経新聞
■法令順守の意識、希薄
仙台市教育委員会が昨年度、懲戒処分にした教職員は10人で、過去5年間で最多となった。40代4人、50代2人とベテラン教員が目立ち、うち2人が停職6月、3人が刑事処分を受け、免職という重い処分を下された。市教委は「非常事態」を宣言。今年度、この年代を迎えた教職員を対象にした研修を新たに取り入れるなど対策に乗り出した。なぜ、40〜50代なのか。事情を探ると、さまざまな不安要素を抱えていることに気づかされる。(伊藤真呂武)
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昨年9月のある日、青葉区内の中学校で職員用女子トイレの個室に、縦15センチ、横30センチ、高さ10センチの台が設置された。便器の右斜め前にあるため、荷物を置くにはちょうどよかった。
ただ、設置主は学校ではなく、男性教諭(55)。それから約1カ月間、台の下には、同僚の女性教諭を盗撮するため、ビデオカメラが仕掛けられた。女性は「便利な台ができた」と思っただけで、盗撮には気づかなかった。
そして、10月下旬のある勤務後、男性は「学校の用事に付き合ってくれ。サプライズがある」とうそをついて、車で女性を連れ出した。市内近郊を移動しながら、車内でカメラを取り出して盗撮画像を見せ、必死の形相で交際を迫った。
「自分の人生を賭けていることをわかってほしい」
女性が冷静に説得し、約2時間半後に解放されたが、翌日には校長、市教委へと報告が上がった。男性は素直に過ちを認め、ビデオカメラ2台、パソコン5台、記録用ディスク6枚を提出したという。
男性は昨年11月27日付で、懲戒免職処分を受け、12月28日には建造物侵入と軽犯罪法違反罪で略式起訴された。
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この男性ら3人の懲戒処分の公表を受け、今月19日に開かれた臨時校長会。
青沼一民教育長は「危機的」「非常事態」という言葉を並べ、「校内で孤立した教職員もいるのではないか。職場環境を充実させ、チームで職務を遂行してもらいたい」などと指示。最後にこう付け加えた。
「心配な教職員は目に付くが、十二分に信頼している教職員ほど目を向けて、声を掛けてもらいたい」
言い換えれば、若手だけでなく40〜50代の教職員にも気を配れということではないか。
市教委関係者は「キャリアを積んでいるのだから、管理職は、任せておけば大丈夫となりがち。本人に相談するより、相談される立場という自覚があれば、悩みを抱え込んでしまう可能性がある」と認める。
40〜50代になれば、両親が介護を必要とする年齢になり、子供が高校、大学受験を迎えるなどプライベートの問題が噴出してくる。「仕事の悩みはまだしも、プライベートの悩みは相談しにくいというのもある」と市教委幹部は言う。
興味深い数字がある。平成20年度に精神疾患で病気休職した仙台市の教職員は35人。20代0人、30代9人、40代13人、50代13人だった。
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臨時校長会の約15分後、別室に教職員歴25年の男女26人が集まった。ちょうど40代後半から50代を迎えている面々。今年度、新たに取り入れたコンプライアンス(法令順守)研修で、6月には40代前半の教職員歴20年を対象にも行う。
市教委幹部は「学校の中核にいるミドルリーダーとして、この研修の成果を学校全体に浸透させてもらいたい」と期待する。
冒頭、講師を務めた研修会社「インソース」の森田伸一さんが「コンプライアンスとは何か」と尋ねると、小学校の50代の女性教諭は「分からない」と気後れすることなく答えた。
森田さんは「教職員を含む公務員は社会からの期待値が高い。本来であれば民間企業よりもコンプライアンスを大事にしなければいけないが遅れている。管理職ほどこうした研修を受けてほしい」と指摘した。
「公務員の常識は世間の非常識」とよく言われる。コンプライアンスを知らなかった女性教諭は研修後、自省を込めて語った。
「子供のことや授業に精力を傾けてきたが、コンプライアンスを意識して仕事をしたことはなかった。自分を含めて、教職員は世の中のことを知らなさすぎる」
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■仙台市教委の懲戒処分
当事者に限ると、17年度5人▽18年度7人▽19、20年度各9人▽21年度10人。処分時の年代別では、40代が17年度0人▽18〜20年度各3人▽21年度4人、50代が17、18年度各1人▽19年度2人▽20年度3人▽21年度1人だった。
21年度は、免職が3人。同僚女性を盗撮するなどした中学校の男性教諭(55)以外には、教え子の女子中学生にわいせつ行為をした中学校の男性教諭(52)、鉄パイプを盗んだ小学校の男性教諭(49)の2人で、いずれも刑事処分も受けている。