【再び問われる「政治とカネ」】2010参院選(中)
2010年6月20日7時56分配信 産経新聞
■不信生む労組の「裏金論理」
「労組は聖域だという気持ちがあった」
平成14年5月10日、東京地裁で開かれた自治労の脱税事件論告求刑公判で、法人税法違反の罪に問われた元自治労委員長は、伏し目がちにこう述べた。
東京国税局は13年、同法違反容疑で自治労本部を強制調査し、これを受けて東京地検特捜部が約6億円を隠して2億円余りを脱税した罪で、元委員長らを在宅起訴した。巨大労組の脱税という前代未聞の不祥事に、90万人を超える組合員の間には激震が走った。
捜査の過程で、元委員長が自治労北海道の委員長時代、自治労本部から3千万円の裏金を受け取り、2千万円を自宅購入費に私的流用していた事実も発覚。内部調査で、自治労北海道側には自治労本部から1億2千万円超の裏金が流れていたことが明らかになった。
脱税の摘発から8年余り。自治労北海道を再び衝撃が襲う。前民主党衆院議員、小林千代美陣営の経理担当だった自治労北海道の財政局長らが、北海道教職員組合(北教組)から選挙資金として裏金を受領したという政治資金規正法違反容疑で、札幌地検に逮捕されたからだ。北教組事件では、労組の裏金体質と政治との関係が、密接不可分であることが明るみに出た。
検察関係者は「脱税事件は、すべてを知る会計担当者が自殺を図ってしまったことで、全容解明とまではいかなかった。いま思えば、脱税の先にも『政治とカネ』の問題があった可能性はある」と述懐する。
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菅内閣発足直後、国家戦略担当相の荒井聡にも「政治とカネ」の疑惑が浮上した。知人の男性宅を主たる事務所として多額の事務所費や人件費を計上していたが、男性が「家賃などの金銭は一切もらってない」と証言したからだ。
前首相の鳩山由紀夫と前民主党幹事長、小沢一郎の2トップによる「政治とカネ」で窮地に陥った民主党は、表紙を菅直人に変えることで支持率をV字回復させたが、松岡利勝ら自民党の閣僚を何度も直撃した事務所費問題は政界に蔓延(まんえん)しており、菅内閣もひとごとではない実態を露呈した。
小沢の「政治とカネ」は、西松建設をはじめとするゼネコンからの資金提供の問題だ。水谷建設からの裏金疑惑も指摘された。
小沢の秘書を20年以上務めた元衆院議員、高橋嘉信も「(秘書時代の)12年2月ごろ、献金の額をアップしてもらうため、1日でゼネコン十数社を回ってあいさつをしたことがあるが、その結果、計4千万円くらいの献金があった」と証言し、ゼネコンと小沢氏側の蜜月関係を振り返る。
だが昨年12月には、元経産相、二階俊博の秘書も西松建設からの違法献金事件で略式起訴されている。民主、自民を問わず旧態依然の政業癒着が、いまだにはびこっている事実が国民の政治不信に直結している。
一方で小林の「政治とカネ」は、こうした従前のものと比べて、かなり異質だ。
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「国政選挙に勝つには、相当な政治資金が必要。民主的教育政策を展開する政権の実現には、資金を準備しなければならなかった」
北教組事件の公判では、政治団体として起訴された北教組の代理人弁護士が、情状酌量を求めるどころか、こうした身勝手ともいえる組織の論理をとうとうと代弁した。違法性は認めるとしながらも、立場の正当性を主張し、事件の責任は自公政権や選挙制度にあるとでもいうかのごとき理屈は、時代錯誤的だった。
「労組はすべての権力行使が悪、というゆがんだ姿勢で臨んでいた時代もあるが、(北教組が)非常に古い昔の理屈を前提に(黙秘などを)したのは、国民の認識と乖離(かいり)している。労組への信頼を損なう行為だ」
ロッキード事件で嘱託尋問を行ったことで知られる元特捜検事で「さわやか福祉財団」の理事長、堀田力はこう指摘する。
「労組が支持する民主党の政権が続けば労組の『政治とカネ』という古くて新しい問題が、事件としてもっと顕在化してくる可能性はある」。捜査関係者はこう推測している。(敬称略)