【揺らぐ沖縄 すり込まれた「反基地」】(下)「政治闘争」からの脱却が課題

【揺らぐ沖縄 すり込まれた「反基地」】(下)「政治闘争」からの脱却が課題
2010年7月10日7時56分配信 産経新聞

 慰霊の日の6月23日、沖縄県糸満市役所前から平和祈念公園(同市摩文仁)まで、毎年恒例の平和祈願慰霊大行進が行われた。千人を超える参加者の中に埼玉県桶川市から駆けつけた女性がいた。

 臼田智子さん(67)だった。父の伍井(いつい)芳夫中佐=当時(32)=は昭和20年4月1日、米軍の沖縄侵攻を阻止するため、妻と3人の子供を埼玉県に残し、鹿児島県の陸軍特攻基地「知覧」から第23振武隊長として出撃、沖縄近海で散華した。

 当時2歳だった智子さんには父の面影は薄いが、平成4年から欠かさず慰霊の日には沖縄を訪れている。

 「最近ようやく沖縄の一部の人たちも父がなぜ戦死したのか分かってくれるようになった」。智子さんはそう語る。

 大戦末期の昭和20年3月下旬から、多くの陸軍特攻隊員が沖縄に向け飛び立ち、1036人の命が散った。石垣島出身の伊舎堂用久(いしゃどう・ようきゅう)中佐=当時(24)=もその一人だった。3月26日、沖縄県民として初めて石垣島の白保飛行場から部下4人と出撃し、慶良間(けらま)諸島近海で特攻を敢行した。

 だが今、多くの沖縄県民には、特攻隊の話はおろか同郷の伊舎堂中佐の出撃の事実さえ知られていない。

 「戦艦大和は沖縄を攻撃するのが目的だった」「特攻隊の任務は沖縄を守ることではなかった」−。そう信じている若者も少なくないという。

 47年の本土復帰後、沖縄県教職員組合(沖教組)と同県高等学校障害児学校教職員組合(高教組)が進めた「日本軍=悪」とする教育の影響にほかならない。

 「学校では生徒に尊ぶべき史実が封印され続け、国家のために命を捧げた英霊の思いを後世に伝えることはなかった」

 沖教組に所属した元高校教員はこう打ち明ける。

 ◆「自衛隊の存在認めぬ」

 本土復帰後、沖教組が影響力を強めるとともに、沖縄での教育は加速をつけて「親日本」から逸脱、変節していった。

 保守系の元県議によると、沖縄で本土復帰運動が一段と高まった38年ごろ、「沖縄を階級闘争の拠点に」と本土でイデオロギー闘争を繰り広げていたグループが参入し始めた。「祖国愛」教育を実践していた沖縄教職員会もその余波で徐々に左傾化していった。

 44年、沖縄返還に向けての佐藤栄作首相・ニクソン大統領による日米共同声明が出されると、「米軍基地が残る欺瞞(ぎまん)的返還だ」として闘争はさらにエスカレートした。46年、後に日教組に加盟する沖教組の結成に至った。

 ある県立高校のPTA会長は振り返る。

 5年前、沖縄戦のジオラマ(戦史模型)が展示されている陸上自衛隊那覇駐屯地に生徒を引率し「平和」について考えようと父兄に提案した。だが「自衛隊の存在を認めることになる」と一部の親が強硬に反対したため頓挫したという。

 「後ろに日除けが付いた帽子を小学校で導入しようとしたが、親や学校に『日本軍に見えるからダメだ』という理由で却下された」

 国歌斉唱問題も根深い。30歳代後半の中学校教員は「卒業式などで君が代の曲は流されるが、私も『天皇陛下を讃える歌だ』として教えられなかったから歌えない。生徒から聞かれても『先生も習わなかったから教えられない』と答えるしかない」と話す。

 ◆「普天間」は“主戦場”

 「5・15(5月15日)平和行進 5・16(5月16日)普天間基地包囲行動、見事成功!」

 「雨にも負けず、アメリカにも負けず」

 沖教組のホームページには過去の活動実績が誇らしげに掲げられている。

 鳩山由紀夫前首相が宜野湾(ぎのわん)市の米軍普天間飛行場の移設先について「少なくとも県外」と公言したことで、沖教組は「普天間」を反米・反日イデオロギー闘争の格好の主戦場に据えて勢いづいた。

 本土復帰から38年、ある県立高校教員は、沖教組の「罪」を告発する。

 「県民に反保守の意識を植え付けた。米兵の事件は批判するが、中国の潜水艦が領海侵犯しても大きな問題にしない。沖縄は左翼思想に犯され過ぎている」

 普天間飛行場の移設先候補として名が挙がった本土の各自治体は即座に「ノー」を突きつけ、基地を暗に沖縄に押しつけた。保守陣営でさえ「差別だ」と批判するが、当事者意識なき本土の姿勢が、沖縄に根付く反基地感情をあおり、沖教組につけ込むすきを与えているのも事実だ。

 沖教組の元関係者は、沖縄の将来をこう危ぶむ。

 「沖縄は政治闘争に利用されてきた。偏向教育を受けた若者が言論リーダーとなっていることも拍車をかけている。自虐史観を除去し、沖縄がどこに向かうのかを真剣に考えなければならない。本土も精神的に沖縄に近づいてくれないとだめだ」(宮本雅史)

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする