「聖職者」のウラの顔… 少女たちの阿鼻叫喚!
2010年7月25日18時31分配信 産経新聞
帰宅直後の少女を狙って乱暴していたのは、現役の小学校教諭だった。警視庁は強姦致傷容疑などで、東京都稲城市の市立小学校教諭、大塚友意(ゆうい)被告(29)=住居侵入罪で起訴、相模原市緑区橋本=を逮捕した。まじめな仕事ぶりで信頼を集め、幸せな家庭も築いていた「聖職者」だったが、そのウラの顔は歪(ゆが)んだ欲望に支配されていた。「10件以上に及ぶ」(捜査関係者)とされる教え子と同世代の少女らを狙った犯行は、卑劣極まりないものだった−。
■少女の背に伸びる黒い影 帰宅直後に襲った悪夢
平成20年秋。都心のベッドタウンと化していながらも、まだ田園風景が残る東京・多摩地区のある都市。小学校高学年の少女は自宅に入ろうとして、カギを取り出した。
「カギっ子」。昭和30年代後半の高度経済成長期ごろから、共働き世帯が増加し、こうした言葉が使われるようになったらしい。だが、少女はそんなことは意識もせず、いつものようにカギを開けた。家には誰もいない。もちろん「ただいま」の言葉はなかった。
その瞬間だった。
背後から一瞬、大きな影が見えたと思うと、強い力で押された。
室内に押し込まれた少女の心は恐怖に支配された。すでに、何が起きて、これから何が起きようとしているのかは理解できた。
だが、家族は留守のため、助けを呼ぶこともできない。抵抗することも許されなかった。男は「抵抗すると殺す」と脅し、少女に乱暴を始めた。
「名前は分かっている。誰にも言うな」
肉体的にも精神的にも傷付けられた少女に対し、男はこう吐き捨てて、逃走した。
男は目出し帽をかぶるなどして、その後も犯行を続けた。多摩地区では20年11月以降から今年1月まで計5件が発生、被害者はいずれも小中学生の少女だった。
警視庁は事件の悪質性を重視し、所轄署に加えて性犯罪などを担当する捜査1課の捜査員を投入した。少女らの証言から浮上した犯人像は20代くらい、身長約170センチの男だった。だが、男の犯行地域は広範囲に及び、犯人にまでたどり着けずにいた。
事態が急展開したのは今年6月のことだ。
5件の現場から10キロ以上離れた八王子市のアパートに侵入した男が、南大沢署に住居侵入の現行犯で逮捕された。
男のDNA型と連続わいせつ事件で現場に残された4件のDNA型を鑑定すると一致したのだ。それが大塚容疑者だった。
大塚容疑者の最初の逮捕容疑は、6月27日午後9時過ぎ、八王子市内で女子大生(19)を後ろからつけていき、女子大生が自宅アパートのドアを開けた瞬間、フェンスを乗り越えて敷地内に侵入したというものだった。
近くの住民が不審な動きをする大塚容疑者を目撃。大塚容疑者は逃走を図ったが取り押さえられ、南大沢署に引き渡されていた。
逮捕後、連続わいせつ事件への関与について、あいまいな供述を繰り返していた大塚容疑者だったが、「DNA型の一致」を突き付けられると、一連の事件について犯行を認める供述を始めた。
■「ストレスがたまっていた」捜査員も呆れる動機
捜査1課は一連の連続わいせつ事件での捜査を本格化させ、強姦致傷などの疑いで今月16日に大塚容疑者を再逮捕した。
逮捕容疑は昨年1月、多摩地区で中学生の女子生徒に乱暴し、軽傷を負わせたというものだった。
「高学年の担任をしていて、進路指導などでストレスがたまっていた。17、18年ごろから、東京都や神奈川県で十数件やった」
大塚容疑者は逮捕後、こう供述した。
捜査関係者によると、大塚容疑者は、バイクで住宅街を徘徊(はいかい)し、“ターゲット”を物色。夕方に学校、学習塾、駅などから帰宅する少女らを尾行し、自宅の玄関を開けようとする瞬間に室内に押し込むという手口で犯行を繰り返していたとみられる。
「『ストレスがたまっていた』というが、ストレスなんて誰にでもある。それを言い訳にするなんて、許されない」
捜査幹部は、こう切り捨てた。
待ち伏せや尾行、家族の不在を確認するなど、手口は周到なものだった。
「おそらく、試行錯誤や失敗を繰り返し、手口を完成させたのだろう。未遂や失敗を含めれば、犯行件数は相当増えるのではないか」
捜査関係者の見立てだ。
捜査1課によると、大塚容疑者が犯行に及んでいたとみられるのは多摩地区のほか文京区、中野区、足立区など。多摩地区で犯行に及んだとされる時期には国分寺市内のアパートに住み、文京区などで発生した時期には、千代田区内の小学校に勤務していた。
「職住近接」という言葉はあるが、大塚容疑者には「職犯」「犯住」が近接だったようだ。
相模原市内の自宅マンションの家宅捜索では、少女を暴行する様子が撮影された映像記録も見つかっている。脅しに使ったのか使途は不明だが、犯行態様の卑劣さを浮き彫りにさせる物証であることには違いない。
■オモテの顔は成績優秀 武道を学んだ学生時代
年端もいかない少女を狙った卑劣な犯行が明らかになる中で、過去を知る知人の証言からは、まったく別の“表の顔”が浮かび上がってくる。
大塚容疑者は品川区出身。成績は優秀で、塾や予備校に通うことなく国内屈指の進学校である筑波大学付属高校を卒業し、埼玉大学教育学部にストレートで進学した。高校では弓道部に所属して部長を務めた。練習熱心で、腕前もよかったという。大学3年のころには極真空手同好会を設立、自ら主将を務めた。
「内気だが、暗いわけではない。人の嫌がることもしなかった。人気もあって彼女もいた。一言でいうと『いいやつ』だった」
高校時代の同級生だった男性は、こう振り返る。一方、大塚容疑者に最近会ったという別の同級生は、教師として仕事を気に掛ける真剣な姿を記憶している。
「同窓会で久しぶりに会ったとき、教師になったと聞いた。『親やクラスメート同士など、いろいろと大変だよ』と話していた。ただ、深刻な様子はなく、優しい口ぶり。先生の雰囲気があるな、と思った」
大学時代、空手を指導していたという男性は、「犯行が事実なら許されない。事件の大きさを考えれば社会的制裁を受けなければならない」と怒りをあらわにした。
男性によると、大塚容疑者は公務員を目指し、卒業を前にして警察官の試験にも合格。ただ、親類に教師がおり、最終的に教師になることを選んだという。
15年4月には、千代田区内の小学校に赴任。同僚らは、大学時代に専攻した理科の指導法を熱心に研究し、夜遅くまで仕事に取り組む大塚容疑者をたびたび目撃していた。
当時の生活について、大塚容疑者は大手コミュニティーサイトの自己紹介欄にこうつづっていた。
〈仕事を始めて5年目。仕事に追われる毎日です。でも、やりがいはあります。〉
「優しくてまじめな先生で評判も良かった。大塚容疑者自身も、『子供が好きで、やりがいがある』と熱っぽく語っていた」(知人の男性)
周囲から見れば、順調な教員人生を歩んでいた大塚容疑者。そのイメージは、残酷な「連続暴行犯」とはおよそ結びつかない。逮捕されるまで、異変には誰一人として気づいていなかった。
■涙ぐむ母親、妻の気持ちは…そして被害者は
「結婚相手は2年ほど交際した女性の教師だと聞いた。本当に幸せそうだったのに…。奥さんのことを考えると、言葉がない」(友人)
昨年3月。結婚式場で新妻を隣に、大塚容疑者は満面の笑みを浮かべていたという。出席者によると、披露宴には当時の教え子たちも大勢出席。人気教諭の一面をのぞかせた。
ただ、大塚容疑者はこれが事実なら、妻との交際期間や結婚と時期を同じくして、犯行を繰り返していたことになる。
「逮捕されてすぐ、(大塚容疑者の担当となった弁護士から、少女に乱暴した)事件について聞きました。どれだけ残酷なことをしたのか…」
都内に住む大塚容疑者の母親は肩を振るわせ、こう切り出した。今年に入っても大塚容疑者に変わった様子はなく、「犯罪にかかわっているなんて、夢にも思わなかった」。母親は涙ぐみながらも、かすれる声を振り絞って続けた。
「今となっては、教師の職に就いたのも、『装っていた』としか言えないのかもしれません。なぜこんなことになってしまったのか。分からないことだらけです。どうやっておわびすればいいのか、言葉も見つかりません…」
妻、母親、学校関係者、友人…。多くの人を裏切り、自らの欲望に走った大塚容疑者。何よりも、「身勝手な性欲」の“餌食”となった被害者らの傷は簡単には癒えない。