中・高校で柔道事故多発

中・高校で柔道事故多発
2010年11月18日 中日新聞

 柔道中の事故が後を絶たない。愛知教育大の内田良講師の調べでは、一九八三〜二〇〇八年度の二十六年間に、中学・高校の授業と部活動中に百六人が死亡。本年度も既に四人が亡くなった。二〇一二年度に中学一、二年で武道が必修化されることから「教師が死亡事故の現実を知り、安全な指導法を学ぶべきだ」という声が上がっている。 (市川真)

 昨年七月末、滋賀県愛荘町の秦荘中学校で、一年生の村川康嗣君=当時(12)=が、柔道部の練習中に意識を失った。

 学校から電話で聞かされた母親の弘美さん(42)は頭が真っ白になった。受話器の向こうでは、救急車のサイレンが鳴り響いている。一カ月後、康嗣君は、頭蓋(ずがい)骨と脳の間で出血する急性硬膜下血腫で亡くなった。

 入部は五月。実質的な練習日数三十日ほどの初心者同然だった。遺族によると、当日、上級生との乱取りを二十数本した後、柔道三段の二十代講師に投げられ、意識をなくした。

 遺族は、講師と学校長を刑事告訴。司直の手で原因究明と責任の所在を明らかにしようと目指すものの、悲しみは癒えない。弘美さんは「もう康嗣は帰ってこない。中学生の姿を目にするとつらい」。同様の死亡事故は、全国で年平均四件ほど起きている。

 過去二十数年間に学校内で起きた柔道の事故七千件を調べた愛教大の内田講師は「柔道特有の死亡事故が極端に多い」と指摘。特に一年生が多く、中学・高校とも半数前後を占めるという。死因の多数を占める急性硬膜下血腫は、投げられたときや後ろ受け身の練習中、頭を畳にぶつけるなどして起きている。投げ技などに耐えられるだけの首の力が付かないうちに事故が起きたと推定される。

 畳で頭を打っていない事例では、投げ技による加速で損傷した可能性もあるが原因は不明。究明がされていないため、防止策も手つかずだ。愛知県がんセンター総長で、全日本柔道連盟(全柔連)医科学委員会副委員長の二村雄次さんは「医療事故のように、第三者が入った事故原因究明が不可欠」と話す。

 二村さんが旧知の元国際柔道連盟理事でフランス人のミッシェル・ブルースさんに聞いたところ、〇五〜〇九年の五年間、柔道人口が日本の三倍の六十万人いるフランス国内で死亡事故はゼロ。日本で事故が多発していることに非常に驚いていたという。

 「フランスでは、寝技やじゃれ合いのように見える遊びを通じて、柔道の楽しさを子どもたちに教えている。日本では乱取りや試合に偏重しているのではないか」と二村さんは話す。

 都道府県教委は、武道必修化で、柔道を指導する体育教諭の多くに柔道競技歴が乏しいとして、指導者講習会を実施している。ただ、受け身ばかりでは授業が単調になりがちだ。変化を付けるため、生徒に乱取りをさせることもありえるが、内田講師は「授業を面白くするために投げさせるのは危険」と警告する。

 「亡くなるケースのほとんどは部活動中の事故。授業に柔道を取り入れている学校で、死亡事故はない」。全柔連教育普及委員会委員を務める東京都八王子市立打越中学校の田中裕之校長は、必修化しても、授業中に死亡事故が起きる可能性は低いと考える一方、「何をしたら危険なのか、指導者はきちんと把握する必要がある」と語る。

 康嗣君の伯父で、「全国柔道事故被害者の会」副会長の村川義弘さん(49)は「学校の授業である以上、安全であるべきだ。具体的な対策が取られないままでは危険。必修化を遅らせた方がいい」と話す。

<武道必修化> 学習指導要領の改定に伴い、中学1、2年の男女全員が柔道、剣道、相撲の中から1種目を選択する。授業時間数は各学年10〜15時間程度。施設や道具の制約があり、学校ごとに種目を決める可能性が高い。

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