妨害以外にも範囲を拡大 国歌斉唱不起立訴訟
産経新聞 2011年5月30日(月)21時17分配信
卒業式での国歌斉唱時の起立命令を合憲とした最高裁判決は国旗掲揚・国歌斉唱の徹底に拍車をかけ、学校教育の正常化に大きく寄与しそうだ。全国で係争中の同種訴訟で請求が認められる余地は一層狭まった。国旗・国歌訴訟に対する憲法の判断基準はこの判決で事実上確立したといえ、現場の混乱に終止符が打たれることが期待される。
過去の国旗・国歌訴訟では、国旗を引き下ろして隠すなど積極的な妨害行為が主に断罪されてきた。しかし、今回の判決は不起立という消極的行為に踏み込んで、職務命令は妥当と判断。国歌のピアノ伴奏を命じた職務命令を合憲とした平成19年2月の最高裁判断に続き、より合憲の枠組みを広げた形となった。
訴訟の争点は職務命令の合憲性に絞られた。つまり、教諭に起立を命じることが憲法19条で規定された思想、良心の自由を侵害するかどうか、という点だ。
類似訴訟とされるピアノ伴奏訴訟では、国歌の伴奏を拒否した女性教諭の考えを「歴史観や世界観」と位置付けた上で、「職務命令で伴奏を命じても、教諭の考えを否定するものではない」などとして合憲の判断を導き出した。
判決ではこうした判断を踏襲しつつ職務命令について「思想、良心の自由を間接的に制約する面はある」との“留保”を示した。
教育現場に一定の配慮を求めたとの見方も可能だが、一方で地方公務員を「住民全体の奉仕者」と位置付け、「法令や職務上の命令に従わなければならない立場にある」「教育上、重要な節目となる行事では秩序を確保して円滑な進行を図るべきだ」とも指摘しており、「制約」の拡大解釈は厳に慎むべきだろう。
教職員による不起立は国旗・国歌に対する反対闘争の手段として用いられてきたが、もはや風前のともしびとなった。大阪府の橋下徹知事が率いる地域政党「大阪維新の会」は、国歌斉唱時の起立を義務付ける異例の条例案を議会に提出している。今回の司法判断で、こうした流れが今後、加速しそうだ。(上塚真由)