再犯防止へ居住地届け出義務づけ 大阪府子どもを性犯罪から守る条例案
産経新聞 2012年1月4日(水)22時44分配信
大阪府が、18歳未満の子供に対する性犯罪前歴者に対し、居住地の届け出を義務付ける条例案を2月の定例府議会に提出する方針で準備を進めている。全国初となる条例の制定を目指す背景には、性犯罪の全体的な再犯率の高さとともに、大阪府内の性犯罪認知件数が全国最悪という深刻な実情がある。被害者支援団体などは、再犯防止に対する国や行政の動きの鈍さに不満を募らせており、条例制定で一石を投じる効果が期待される半面、人権面での課題も浮かんでいる。
■モデルケースに
「被害者側からみたら、全くの無策だ」。犯罪被害者の支援などに携わるNPO法人「大阪被害者支援アドボカシーセンター」(大阪市)の担当者は、性犯罪者に対する国内の矯正施策についてこう言い切る。
同センターで平成22年に受けた相談・支援件数延べ996件のうち、性的被害は約4割を占めた。対象は小学校低学年から成人までの女性被害者やその家族。被害者は、男性に恐怖感を抱き、日常生活すら送れなくなる程の深い傷を負う。
受刑者の出所が近づくと、精神的に不安定になる被害者も少なくない。18歳未満の子供に対する性犯罪者が出所後、名前を変えて再び子供と携わる仕事に就いているケースもあった。
大阪府の条例案に対し、センターの担当者は「海外並みに厳しい施策に取り組んでほしいが、府の方針は、国内の関心を高めるモデルケースとして評価できる」と語る。
■高い再犯率
府内の22年の性犯罪認知件数は、強制わいせつが全国最悪の1078件、強姦も東京に次ぐ119件に上る。うち被害者が18歳未満のケースは、強制わいせつが440件、18歳未満人口100万人あたりの件数は312件で、2位の福岡県(235件)の1・3倍に達しており、全国最多だ。強姦も全体で34件、同人口100万人あたりの件数は24件で、千葉、愛知両県とともに最多だった。
大阪府警が昨年8月、中学2年の女子生徒に乱暴してけがをさせたとして、強姦致傷容疑で逮捕した男(41)は、強制わいせつ罪などで懲役3年の実刑判決を受け、22年11月に出所したばかりだった。昨年4月に民家に押し入り、高校生の女子生徒を乱暴したとして、強姦容疑で逮捕された男(40)も、10代の頃から強制わいせつなどを繰り返し、17歳で中等少年院に入院。その後も強姦罪などで有罪判決を受けている。
府警によると、昨年1〜11月末で強姦、強姦未遂容疑で逮捕された70人のうち約4割の27人が性犯罪の再犯者で、うち18歳未満への性犯罪の再犯者は16人だ。
■人権面に課題も
一方、大阪府には「前歴者とは言っても、刑を終えて出所した人だから、人権やプライバシーに配慮すべきだ」との意見も寄せられているという。
明治大の菊田幸一名誉教授(犯罪学)は「情報が流出して周囲に知られ、前歴者やその周辺者が不利益を被る可能性がある」と指摘。「大阪府外で再犯を起こす可能性もあり、国内の社会復帰支援制度も十分でない中で、大阪府だけが届け出を義務付けるのは唐突感がある」と話している。
大阪府子どもを性犯罪から守る条例案(仮称) 18歳未満の子供への性犯罪の前歴者(強姦や強制わいせつ、児童ポルノの製造など)に対し、出所後5年間、府への居住地届け出を義務付ける内容。13歳未満へのつきまといや着衣を引っ張る行為も禁止する。情報は府が管理し、定期的に精神科医らのカウンセリングを実施するほか、警察や保護司と連携して社会復帰支援を行うという。昨年9月、橋下徹前知事が「子供に対する性犯罪は再犯率が高い」として条例案の検討を表明。松井一郎知事は、2月の府議会に提案する方針を示している。