寝屋川事件から見える、いじめられる者が「生きるすべ」

寝屋川事件から見える、いじめられる者が「生きるすべ」
産経新聞 2012年8月4日(土)23時7分配信

 「仲良しグループの遊びの延長」は、実は過酷ないじめだった。大阪府寝屋川市の市立中学校で7月、中学3年の男子生徒(14)に暴行したとして、同級生ら5人が大阪府警に逮捕・補導された。生徒は髪を燃やされたり鼻の骨を折られたほか、窃盗も強要されていたが、仲良く行動する姿も頻繁に目撃されており、別の同級生らは「笑っていたし、いじめと思わなかった」と明かす。専門家は「愛嬌(あいきょう)を振りまくのは、集団で生きていくための努力だったのだろう」と分析。あらためていじめ問題がクローズアップされる中、周囲が小さなサインを見逃さず、積極的に関わりを持つことが求められるとしている。

 ■髪を燃やして動画撮影

 今年5月19日夜。被害生徒の携帯電話に同級生の男子(15)から呼び出しがあった。指定された公園に行くと、電話をかけてきた1人を含めた同級生の中3男子の3人と中2の男子2人の計5人が集まってきた。

 何かやり取りがあったのだろうか、日付が変わって20日になったころ、生徒は頭を前に突き出すように、2人に体を押さえつけられた。それを見て1人がライターを取り出し、ガスを口の中に吸い込む。そして、ライターを点火し、生徒に向かってガスを吹き出した。すると、引火したガスが炎となって生徒に向かい、あっという間に生徒の髪の毛はチリチリに焼けてしまった。

 この様子を、別の同級生が携帯電話の動画機能で撮影していた。公園は暗く、ペンライトであたりを照らしながら、のことだった。

 それから6日後の26日夜。

 再び同級生3人から呼び出された生徒は、「川の中のコイを捕ってこい」と命じられた。言われるままに川に入り、ズボンがずぶぬれになると、今度は「ズボンを盗んでこい」。生徒は民家に忍び込んだが、住人に見つかり、通報を受けた警察官に補導された。

 呼び出した3人は、生徒を置き去りにし、現場から逃走していた。

 さらに2日たった28日放課後。

 生徒は3人のうち1人に顔を殴られ、鼻の骨を折られた。補導された際、警察官に同級生3人が一緒にいたことを明かしたからだった。

 生徒の顔は腫れあがっていた。異変に気づいた学校側は生徒から事情を聴いた上で、30日に府警に通報。府警は7月、髪を燃やしたり、顔を殴ったりしたとして、同級生3人を傷害と暴力行為法違反の疑いで逮捕、中2の2人を同法違反の非行事実で児童相談所に通告した。

 府警が押収した同級生の携帯電話には、髪を燃やした様子の動画が残されたままだった。

 ■1年半前にいじめ認識

 府警によると、生徒は中1のころから、3人に「おごってくれや」「自転車の修理代を出せや」などと金銭を要求されており、「毎月数千円を渡していた」という。3人も、府警の調べに「ずっといじめていた。面白半分だった」と容疑を認めている。

 こうした彼らの関係について、学校側は事件の1年半前に「いじめがあった」と認識していたという。 寝屋川市教委は会見で、「被害にあった生徒を注意深く見守っていたのに、事態を防ぐことができず申し訳ない」と陳謝した。

 市教委によると、生徒が1年生だった昨年2月、市内の駐車場で、3人に小突かれたり、蹴られたりする暴行を受けたことがあった。学校は保護者と話し合い、進級時にクラスを別々にするなどの対策を取り、2年時にはいったんいじめは収まったという。

 ただ、生徒が3年になると、再び3人と行動をともにするようになった。しかし、市教委は「最近は仲良くしているという風にとらえていた」としている。

 どういうことなのだろうか。

 ■難しい子供社会

 クラスメートらによると、生徒は授業で教室を移動する際、教科書やノートを持たされる「パシリ役」(使いっ走り)になっていた。まゆ毛をそられ、黒いペンでまゆを描いて登校したこともあった。

 最近では、じゃんけんで負けると肩を拳で殴られる「肩パン」というゲームを強制され、肩にあざを作ることもあった。クラスメートの男子(15)は「体操服に着替えるときに肩が腫れあがっているのを見た。結構痛々しかった」と振り返る。

 しかし、明確に「いじめ」とは思っていなかったといい、「度が過ぎているとも思ったし、遊ばれているようにも見えた」と話す。別の男子も「生徒はいつも笑っていた。誰もいじめとは思っていなかったのではないか」という。

 逮捕された同級生の父親(60)は「けがをさせてしまって申し訳ない」とする一方、こうも話している。

 「被害者は2年生の時からほかの同級生4、5人と家に泊まりに来ていた。ご飯を一緒に食べたこともある。遊び仲間の1人だと思っていたし、いじめがあったとは全く思わなかった」

 周囲は、少なくとも最近の彼らについて「仲良しグループ」という見方が少なくなかった。しかし結果的に、それは誤った認識だった可能性が強まっている。

 新潟青陵大大学院の碓井真史教授(社会心理学)は「気の弱い人が他人に強く言われて逆らえないという傾向は、子供社会のほうが大人社会よりも強く表れる」と指摘。その上で、生徒の行動について「加害者と距離を置くことができないくらい立場が弱かったのではないか。笑顔を見せたり愛嬌を振りまいたりしていたのは、集団の中で生きていくための必死の努力だったのだろう」とみる。

 なかなか真実が見えづらいいじめ問題。碓井教授は「学校側がクラスを分け、子供同士の距離を離したのは正解だが、それでも行動をともにするのであれば、グループに積極的に介入する対策も取るべきだった」と話している。

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