いじめ指摘すると「問題教員扱い」 求められる学校の毅然とした姿勢
福井新聞ONLINE 2012年8月22日(水)8時25分配信
大津市の中2男子自殺を受け、国が実態調査に乗り出すなど、いじめ問題の余波が全国に広がっている。福井県内では記録の残る1999年度以降、いじめが原因とされる児童生徒の自殺は報告されていないものの、子どもがいじめを受けた経験を持つ保護者は「学校は何を守ろうとしているのか」と不信感を募らす。学校関係者は「どこにでも起こりうること」と警鐘を鳴らし、管理職のリーダーシップの下、いじめは絶対に許さないという毅然(きぜん)とした姿勢をあらためて求めた。
■証拠がない
「死んだらどうなるのかな」。福井市内の母親(42)は、一昨年の夏休み前、当時中学3年だった次女が漏らした一言に言葉を失った。
幼なじみで同じ部活だった同級生の女子から突然、無視されるようになったのはその年の2月。理由は分からなかった。しかし、幼なじみの執拗(しつよう)な無視は、波紋のように部活からクラス全体に広がり孤立していった。
部活の顧問に相談すると、事実を認めた上で「何とかしますから」と話してくれたが、状況が改善しないまま数カ月が過ぎた。教委に訴えようとも考えたが、ほかの親からは「言っても無駄だから」と言われた。
その後、学校の玄関で偶然担任と出くわした。「何かあったら電話しなさいと毎朝、小銭を渡して送り出す親の気持ちが分かりますか」と問い詰めると、目に涙を浮かべ「いじめがあったと認識しています」と答えた。ところがその場に現れた校長から出た言葉は「物理的な証拠がない。いじめとは言い切れないでしょう」だったという。
次女は高校に進学し明るさを取り戻したが、母親は大津市の問題を重ね合わせ「なぜ認めようとしないのか。校長はいったい何を守ろうとしているのか」と憤った。
■事なかれ主義
県教委は、全国でいじめによる自殺が相次いでいたことを受け2007年、予防策をまとめた「いじめ問題対応の手引」を作成、国公私立全校に配布した。この中では「どんな小さなサインでも見逃さない早期発見、早期対応の徹底」が求められるとしている。
しかし福井市内の小学教員は教員個々の意識の差を嘆く。いじめ問題は、その内容や状況によって当事者、クラス、学校学年、保護者らへの対応はさまざまだが、どんな場合でもうやむやにしないことが基本。ところが「子どもの十分な対応をしないまま、保護者さえ納得させれば終わりと考えている人もいる」と残念がる。
県教委の調査では、県内でいじめを原因とする自殺はないものの、この教員は「理由は分からないが、問題を極力小さく見せたいという意識が一部の管理職や教員から感じる。事なかれ主義の体質が大きな問題につながる根っこになっているのに」と問題視する。さらに「こうした意識の校長や教員から見れば、おかしいと声を上げる教員はうっとうしい存在。下手をすれば熱くなっている側が問題教員扱いされてしまう」と本音を漏らす。
■上の視線
県教委関係者の男性は「大津のような場合、教員が気付かないはずがない」と断言する。「教員評価や管理職人事など、それぞれの立場の中で、学級経営に携わる教員は管理職を、学校経営を担う管理職は教委の視線を気にする構図は少なからずある」と背景を語る。
「いじめ問題に対処するのは、ものすごく体力と気力がいること」と県内のある校長は打ち明ける。その上で、大津のような問題はどこでも起こる可能性があるとし「命より大切なものはない。大事なのは子どもや保護者から十分に話を聞き、しっかりと問題の本質を伝えること。いじめは絶対に認められないという毅然とした姿勢を、まずは管理職から示すことが必要」と話した。