小6女子自殺、7年前から時止まったまま…「命続く限り知りたい」

小6女子自殺、7年前から時止まったまま…「命続く限り知りたい」
産経新聞 2012年10月25日(木)17時6分配信

 7年前から時が止まったままの子供部屋は、祭壇に供えられた白いユリの花が香っていた。北海道のほぼ中央に位置する滝川市。いじめを苦に自殺した小学6年の松木友音(ともね)さん=当時(12)=の大叔父、木幡幸雄さん(64)は遺影の前で声を絞り出した。

 「学校で本当に何があったのか知りたい」

 平成17年9月、友音さんは教室で首をつって自殺を図り、翌年の1月に亡くなった。修学旅行の班分けで仲間外れにされるなどのいじめがあり、教壇には家族や加害児童らへ宛てた7通の遺書が残されていた。

 《悲しくて苦しくて、たえられませんでした。なので自殺を考えました》

 自殺直後、市教委は「いじめはなかった」と発表。遺族へ十分な報告を行わなかった。「いじめを認めないマニュアルでもあるのではないか」。木幡さんは加害児童たちの家を訪ね、通学路に立って話を聞くなど自分で動くしかなかった。

 遺族が市と国を訴えた裁判は22年に和解が成立した。「担当教諭らが注意深く観察し、情報共有していれば、いじめを認識できたはずで、自殺を防げた可能性が十分ある」。和解内容は学校側の責任を認めることや第三者調査機関の設置など再発防止策が盛り込まれた画期的なものだった。

 ◆「学校と対等」

 当時、市教育長代理だった小田真人教育長(56)は「当時の教委には隠蔽(いんぺい)と呼ばれても仕方のない判断があった」と振り返る。ただ、調査内容をすべて明らかにすることについては、「いじめた児童がいじめられる可能性もあり、遺族の心情と、行政の枠組みの限界も感じている」とも語る。

 文部科学省は23年6月、自殺が起きた際には速やかに背景調査を行うよう全国に通知したが、調査内容の安易な公表は避けるべきだと付言した。「臆測や作為が含まれている可能性があるため」としている。

 いじめで自殺した子供の遺族らでつくるNPO「ジェントルハートプロジェクト」(川崎市)理事の武田さち子さん(54)は「学校や教委が判断した情報しか与えられないことが遺族の不信感を増幅させてきた。遺族は学校と対等な立場で同じ情報を得て調査すべきだ」と訴える。

 今月17日、東京都品川区教委は9月にいじめを受けていた中1男子が自殺した問題で、調査対策委員会の委員に遺族を加えることを明らかにした。「調査の客観性、透明性を担保するため」といい、新たな取り組みとして注目される。

 ◆前に進めず

 《第2、第3の自殺者を出さないためにも、子供たちの様子に目を配り、大人の視点だけで状況を判断せずに、子供の立場に立って訴えに耳を傾けて下さい》

 全国で相次ぐいじめ自殺を受け、滝川市教委は9月、市内の小中学校に、木幡さんら遺族が思いをつづった文章を再び配った。和解直後、再発防止を約束して配られたものだ。

 友音さんの自殺後、市教委は、速やかな対応をまとめた「いじめ指導マニュアル」を作り、生徒指導の担当教諭を月1回集めて事例を検証する研修会を開くほか、年2回のアンケートを行い、いじめの早期発見に取り組んでいる。

 一方、友音さんの担任だった40代の男性教諭は裁判では「覚えていない」と繰り返し、責任を認めなかった。教諭は現在も道内の小学校で教壇に立ち続けているが、木幡さんが面会を求めても拒否するという。「学校で何があったのか。一生かかっても、命の続く限り知りたいと思うでしょう」。和解しても、前に進めない遺族がいる。

 【用語解説】松木友音さん事件

 平成17年9月9日、北海道滝川市の小学6年、松木友音さん=当時(12)=が、同級生に避けられるなどのいじめを苦に自殺。市教委は「いじめはなかった」と発表したが、1年1カ月後の18年10月、一転していじめがあったと認めた。対応の不手際の責任を問われ、教育長が辞任したほか、市教委幹部2人が停職、校長が減給、教頭と担任も訓告処分とされた。

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