堀越学園・解散命令へ:消えた若者の夢/上 声楽家目指した女性「2年間を無駄にした」 無理なカリキュラムも /群馬
毎日新聞 2012年11月9日(金)11時53分配信
文部科学省の審議会が今年度末までの解散命令を答申した学校法人堀越学園(高崎市、王豊理事長)が運営する創造学園大学。全国48大学が転学支援で特別措置を講じるが、芸術系学科の特殊性などから、学生たちの不安は消えない。すでに転学などで大学を去った元学生たちが同大で描き、消えていった「夢」から今後の課題を探った。
09年4月に創造学園大創造芸術学部に入学した女性(22)は、この秋、前橋市の市民オペラに入団した。「やっぱり音楽から離れられない」。途絶えた夢を取り戻そうと新たな一歩を踏み出した。
女性は、高崎経済大付属高校の芸術系コースを卒業、自宅から通えることから同大を選んだ。高校の教師からも同大を薦められたという。08年8月のAO入試を受けたが、面接だけのあまりにも簡単な試験に「おかしい」と感じた。入学前の09年1月末、同大の教職員の給料遅配が報道され、県教育委員会が「進路指導を慎重に」と通知したことを知った。別の大学への進学も考えたが、大学入試センター試験を受けておらず、断念せざるを得なかった。
それでも、大学で声楽を学び、プロの歌手としてオペラなどの舞台に立ちたいという夢があった。全国でも珍しい音楽療法士の資格取得コースを声楽と同時に履修できると説明を受け、資格取得の勉強にも励んだ。
しかし、入学後のガイダンスで突然、同学部を2期制から4期制に変更すると知らされた。カリキュラムの編成が窮屈になり、2年の2学期には、声楽系と音楽療法士資格に必要な講義が同時間帯に実施されるようになり声楽系の履修の一部はあきらめた。4期制のため、声楽のレッスンも3カ月ごとに試験や補修などで数週間中断される。経営悪化が表面化する中、次々に教員が大学を去った。
「卒業まで大学はもつのだろうか」。11年春、埼玉県内の音楽系学科のある大学への転学を決断した。2年間の修得単位は98。転学先の大学では通常、62単位が認定される。認められたのは55単位。「徳を積む」「創造学概論」……。必修科目が軒並み認められなかったという。同大の担当者は「基礎科目の内容が、想定する内容とかけ離れていた」と話す。
期待を胸に臨んだ声楽の授業では「ちゃんとレッスンをしていなかったの」と尋ねられ、発声法を一から直された。「高校を卒業したままで(創造学園大に進学せずに)うちに来てくれていれば……」という言葉もかけられた。「2年間を無駄にした。そう思うと、とても続けられなかった」。音楽を学ぶことをあきらめ、半年で退学した。
今年4月、県内の短大に入学。保育士を目指し、毎日の講義は充実しているという。それでも時々「音楽を勉強しているはずの自分を想像してしまう」という。
11月9日朝刊