いじめ:県が「撲滅宣言」 「県民総ぐるみで取り組み」 /埼玉
毎日新聞 2012年11月21日(水)11時33分配信
県や県教育委員会、県警本部などは20日、いじめ問題に関係者が一体となって取り組んでもらおうと、「県民総ぐるみでいじめ撲滅に徹底的に取り組み続ける」とうたう「いじめ撲滅宣言」を発表した。県教委によると、教委単位だけではなく、行政や警察を交えて宣言をするのは全国的にも異例という。
宣言には、上田清司知事や県教委の斉之平伸一委員長、県警の金山泰介本部長ら関係者14人が参加した。学校、家庭、地域、関係団体それぞれの役割を明記し、家庭では自分の子どもを守るとともに、いじめをする側に回った場合に本気でしかることを盛り込んだ。
この日は、上田知事が定例記者会見で宣言を読み上げ、「大人は本気です」と強調。同席した県教委の前島富雄教育長は「いま、いじめられている子どもたちを徹底して守り通すという強い姿勢で、いじめ撲滅に取り組む」との決意を示し、金山本部長も「関係機関との連携を密にし、いじめ撲滅への支援に取り組む」と述べた。
また、県教委などは10月にまとめた対策に基づき、4カ所ある教育事務所に退職教員らによる支援チームを編成▽電子メールで受け付ける相談の専用フォームを新設▽心の悩みに対応する「スクールカウンセラー」、家庭に働きかける「スクールソーシャルワーカー」も増員−−などの事業を来年度から始める。【木村健二】
◇宣言への連名者
いじめ撲滅宣言に名を連ねた人は次の通り。
上田清司知事(青少年育成埼玉県民会議会長としても参加)▽斉之平伸一・県教育委員会委員長▽金山泰介・県警本部長▽須田健治・県市長会長▽野川和好・県町村会長▽永田直美・県市町村教育委員会連合会長▽福地満・県公立小学校校長会長▽近藤誠・県中学校長会長▽内田徹・県高等学校長協会長▽小川義男・県私立中学高等学校協会長▽長田広・県PTA連合会長▽熊谷哲郎・県高等学校PTA連合会長▽山本浩美・県特別支援学校PTA連合会長▽島村健・県私立小学校中学校高等学校保護者会連合会長
◇「子どもの居場所を」 春日部の松実高等学園、不登校生徒積極受け入れ
◇「信じられる友達作れ、変わることができた」
「空を見ながら、死ねばいいのかなと考えた。ここに来なかったら、多分私も自殺していたと思う」
不登校になった経験のある生徒たちが多く通う春日部市の通信制のサポート校「松実高等学園」(松井石根(いわね)学園長・理事長)。高等部3年の女子生徒(17)が中学時代に受けたいじめの体験を打ち明けてくれた。
いじめは入学直後に始まった。クラス全員から「キモイ」と無視され、給食時は一人だけ席を離された。
「もう始まったのか、いじめ」
ストレスから過呼吸になって運ばれた職員室で、教師たちの会話にショックを受けた。小学校からの友達が、他の生徒の視線に気付いて自分から離れた時、緊張の糸が切れた。泣きながら両親に全部打ち明け、学校に行くのをやめた。
来春の大学入学も内定した女子生徒は「学園に来て、いろんな人たちとの関わりの中で変わることができた。100%信じられる友達を作ることができたから」と言う。そして「大人になってもいじめはあると思う。でも、いじめられた経験のある子は、そういうことを絶対繰り返さないよう努力することができる」と続けた。
通信制高校と連携して授業を進める「技能連携校」として、不登校になった経験のある生徒を積極的に受け入れている同校には、現在、高校生187人、中学生77人、小学生8人が通う。松井学園長は「いじめでいったん不登校になった生徒たちも、ここでは毎日通っている。一番大切なのは子どもたちの居場所を作ってあげること」と強調する。
同学園で演劇部の部長として活躍する男子生徒(17)は、いじめに遭っていた中学時代を振り返った。「先生に気付いてほしくて、わざと何度も職員室の前の廊下を走った。たとえどんな小さなサインでも、SOSを拾ってあげてほしい」
学校や家庭、地域の大人たちが真剣に受け止めなければならない重い言葉だった。【合田月美】
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◇いじめ撲滅宣言・全文
私たちは、子供たちが安心して健やかに成長できる社会をつくるため、「いじめは絶対に許さない」、「子供たちを守る」という強い決意のもと、県民総ぐるみでいじめ撲滅に徹底的に取り組み続けることを宣言します。
○学校では、「いじめは、どの学校でも、どの子にも起こり得る」との認識のもと、いじめの未然防止に全力で取り組みます。
いじめを発見したら、関係機関と協力して早期解決を図るとともに、被害にあった子供に寄り添い守ります。
家庭、地域、県や市町村、関係団体では、学校の取り組みを全力で支援します。
○家庭では、他人を思いやる大切さや生命の大切さを教えるとともに、いじめから我が子を守ります。
我が子がいじめをしたら本気でしかります。
○地域では、「地域の子供は地域で育てる」という認識のもと、学校や家庭と連携し、それぞれの役割に応じていじめ撲滅に積極的に関わります。
○県や市町村、関係団体では、「いじめ問題は社会全体で取り組むべき課題である」という意識の醸成を図るとともに、あらゆる方策を講じて未然防止・早期発見・早期解決に全力で取り組みます。
平成24年11月20日
11月21日朝刊