いじめ線引き、学校苦慮 文科省緊急調査 認知件数に地域格差
産経新聞 2012年11月23日(金)7時55分配信
大津市の中2男子自殺問題をきっかけに社会問題化した「いじめ」。文部科学省が22日に発表した緊急調査では、潜在的ないじめの認知が進むという効果があった半面、都道府県間で認知件数に大きなばらつきが見られるなどの課題も見えた。「どこまでがいじめか」。学校現場でも苦慮する姿が浮かび上がった。
◆一件でも多く
「いじわるをされたり、いやなおもいをさせられたりすることがありますか」
今回の調査で鹿児島県教育委員会が実施したアンケートはこう尋ね、「からかい」や「仲間外れ」など9項目のいじめの態様を列挙し、○をつけさせた。
県教委では、軽微なものも含め、いじめを一件でも多く発見して解決することを目指し、今回初めて全県統一の無記名アンケートを実施。結果、平成23年度の問題行動調査では395件だった認知件数は、約78倍の3万877件に跳ね上がり、全国で断然トップとなった。担当者は「もっと潜在的にいじめがあるのではないか、との前提で子供が思いを訴えやすいアンケートにした」と説明する。
多くの都道府県でも、23年度1年間の認知件数を上回った。各都道府県教委は、このうち7割が教師、6割が児童・生徒や保護者の意識の高まりが原因と分析する。同省では「学校現場の意識を高め、認知が進んだことは今回の調査の成果だった」としている。
◆最大160倍の差
一方で、1千人当たりの件数で最大160倍の差がつくなど地域差も拡大。各都道府県で調査時期や方法が異なるためだ。地域によっては学期ごとに調査を実施しているため、1学期の調査結果を報告した教委もある。アンケートや面談など、方式もさまざまだ。
いじめ問題に取り組むNPO法人「ジェントルハートプロジェクト」理事の小森美登里さん(55)は「調査は環境も含めて同じ条件下でやるのが基本。そうでないと比較できない」と指摘するが、文科省は「地域で事情が違い、件数そのものではなく、解決率や解決方法を重視したい」として、調査方法を全国で統一することには慎重姿勢だ。
各教委によると、調査では、教師から「どこまでをいじめととらえればよいのか」との声が多く聞かれたという。これも、ばらつきが出る要因だ。文科省のいじめの定義は「心理的、物理的攻撃を受けて精神的苦痛を感じているもの」だが、同じ行為でも「嫌な思いをしたか」と「いじめと感じたか」という尋ね方では、結果が異なる。
いじめ自殺で中2だった次男を失った愛知県西尾市の大河内祥晴(よしはる)さん(66)は「あまり、いじめという言葉にこだわりすぎてもいけないのではないか。相手に嫌な思いをさせる行為を広くとらえて、解消に努めることが重要だ」と話している。
■小学校で早期対応を
東京学芸大教職大学院の今井文男特任教授の話「平成23年度の調査に比べ、小学校の認知件数が半年間で2・7倍に増えていることに注目したい。潜在的ないじめが小学校に多く、教師たちが早期対応してこなかったことが、中学校での『重大事案』につながっていると読み取れる。小、中学校は連続性がある。小学校での軽微ないじめも見過ごさず、きちんと指導することが重要だ」