有名教授が落ちた「ハニートラップ」 モデルとデートと信じて運び屋に

有名教授が落ちた「ハニートラップ」 モデルとデートと信じて運び屋に 
産経新聞 2012年12月15日(土)21時54分配信

 素粒子物理学などの分野で業績を残してきた英国の物理学教授が11月下旬、約1・8キログラムのコカインを米国に密輸しようとしたとして、アルゼンチンの裁判所から4年8カ月の自宅拘留判決を受けた。この69歳の老教授は30歳以上も年下のゴージャスな美人モデルとデートできると信じ込んで南米まで出かけたところ、コカインの運び屋として利用されてしまったとみられている。老教授は「私の罪は寂しかったことだけだ」と無罪を主張しているが、世界レベルの頭脳でもコントロールできなかった下心のツケは高くついている。

 有罪判決を受けたのはオックスフォード大出身で米ノースカロライナ大学で物理学と天文学を教えている。2008年にノーベル物理学賞を受賞した南部陽一郎シカゴ大名誉教授との共著もあり、宇宙に存在するとされる暗黒物質の研究で知られている。

 英メディアの報道によると、フランプトン教授の転落は昨年11月、インターネットの出会い系サイトでチェコ出身で36歳のモデル、デニス・ミラーニを名乗る女性と知り合ったことで始まった。

 フランプトン教授は約3カ月のやりとりを経て、今年1月、彼女から面会場所として指定された南米ボリビアに向かう。しかしそこで待っていたのは彼女の友人を名乗る男。フランプトン教授はミラーニさんはベルギーで仕事をしており、アルゼンチン経由でブリュッセルに向かうよう告げられる。その際、「彼女の荷物だ」として小さなスーツケースを預かった。

 フランプトン教授は男の言葉通り、アルゼンチンのブエノスアイレスに向かう。しかしそこでブリュッセルから送られてくるはずの電子チケットを受け取ることができず、ノースカロライナに戻ろうとしたところ、手荷物検査でスーツケースの底に隠されていたコカインが見つかった。

 ミラーニさんは実在する人気モデルだが、米カリフォルニア州在住で夫も子供もいる。事件発覚までフランプトン教授について何も知らなかったという。麻薬取引組織が美人モデルとのデートをエサにして教授を誘い出し、コカインの運び屋として利用しようとしたとみられ、フランプトン教授は英メディアの取材に、「私はだまされた側で、無垢(むく)の市民だ。罪があるとすれば寂しかったということだけだ」と主張している。

 しかしアルゼンチンの地元メディアの報道によると、裁判では、フランプトン教授がミラーニさんと信じていた女性あてのメールで、「麻薬探知犬が心配だ」「君の特別なスーツケースを大事にしているよ」「これはボリビアでは大した価値はなくても、ヨーロッパでは数百万ドルの価値がある」と言及していたことが発覚。スーツケースの中にコカインがあることを知っていた疑いが強いことが明らかになり、11月19日、有罪判決が下された。

 フランプトン教授は数年前に妻と離婚し、現在は独身。前妻は今でも教授と友人関係にあるというが、事件を受けて「ポールは世間知らずのおバカさんだ」とコメントした。米ABCニュースも「彼はIQが高く、物理学などの分野で良く知られた傑出した人物だが、常識という分野ではゼロ点だ」との犯罪捜査専門家のコメントを紹介している。

 ただし物理学や天文学の専門家の間からは「フランプトン教授が被害者であることに疑いはない」との声が上がっている。フランプトン教授の支援を目的に作られたホームページには1979年にノーベル物理学賞を受賞したハーバード大学のシェルドン・グラショー教授ら、数多くの学者がフランプトン教授の支援に名乗りを上げている。

 英インディペンデント紙によると、英国では1カ月に100人以上が異性との交際をダシにした「ハニートラップ」にひっかかり、平均1万2600ポンド(約170万円)の被害にあっているという。しかし被害者側が犯罪者にだまされたことを恥ずかしいと思って警察に被害を届け出ないケースも多いとみられ、被害額は報告されている1カ月あたり140万ポンド(約1億9000万円)よりも大きいとの見方もある。

 多くのケースでは犯罪者がインターネットを通じて被害者と接触をとり、海外に病気の親戚(しんせき)がいるなどと偽って送金を依頼するという。英レスター大学のモニカ・ウィッティ教授は4月に発表した「オンラインデート詐欺の心理学」と題したリポートで、「犯罪者は被害者にウェブカメラの前で性的な行為をするよう求めることもある。それが録画されれば後になって脅迫に使われるかもしれない。詐欺は被害者がだまされていると気付いて、送金をやめるまで終わらない」としている。

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