教員駆け込み退職問題:9日まで県内では希望者ゼロ、“封じ込め策”奏功か/神奈川
カナロコ 2013年2月10日(日)6時30分配信
公務員の退職手当引き下げを受けて定年を迎える教員の「駆け込み退職」が全国で相次いでいる問題で、県内の早期退職希望者は9日まで、ゼロの状況が続いている。「聖職者」たる教員の倫理観が歯止めとなっている一方、県教育委員会による“封じ込め策”が奏功している格好だ。ただ、早期退職申し出期限を14日に控え、現場からは「制度の問題が教員のモラルにすり替えられた」と不満の声が上がっている。
◆現場には違和感「問題すり替え」
県の退職手当引き下げ案の適用は3月1日。約50万円の減額を免れるためには今月14日までに「自己都合退職」を申し出る必要がある。
県教委によると、県内で3月末に定年を迎える教員は1293人。9日までに数件の相談が寄せられているものの、早期退職を届け出た教員はいないという。
県教委は1月末、定年予定の教員に対し、自己都合退職者を4月以降も学校現場で働ける「再任用」(最大5年)の対象外とすることを通知。「教員のプライド」に期待する一方、「ご都合主義は困る」(県教委担当者)と年金が支給される65歳までの定収保証を逆手に、けん制している。
こうした県教委の対応に、早期退職を思いとどまった教員たちは不満をくすぶらせている。三十数年間にわたる教員人生の最終章に苦渋の選択を突きつけられ、行政への不信を抱いたまま現場を去らざるを得ないからだ。
「生徒よりお金という理由で辞める先生はいない」と話すのは、県立高校に勤める男性教諭(60)。副担任や部活動顧問で多くの生徒と接しており、「最後まできちんと生徒の指導をしなければ」と強調する。教員生活の35年間、いつも「生徒に教えられ、支えられた」と感じてきたからだ。
一方で、早期退職を選ぶ教員がいたとしても、責める気持ちにはなれない、と明かす。「子どもの教育費や療病、ローンなど事情はあるだろう。教員も『聖職者』である前に生活者だ」
別の男性教諭(60)は「制度的な問題が、教員のモラルの問題にすり替えられた」との違和感を拭えない。減額には納得していないが、自身が早期退職しないのは「一方的に減額を決め、早期退職する教員をおとしめるような世論を生じさせた政治への反発」から。それを「教員の矜持(きょうじ)」と称賛されることには、強い拒絶感を覚える。
逡巡(しゅんじゅん)する教員たちを尻目に告げられた早期退職者に対する「再任用対象外」の通知に、ある労組の幹部は「教員の長年の努力を踏みにじるもので、脅し以外の何物でもない」と憤りを隠さない。児童生徒に対する指導の継続性を理由に挙げる県教委側の説明には一定の理解を示すが、「到底納得はできない」との姿勢だ。
県教委は早期退職者が出た場合に備え、4月からの正規採用者の前倒し登用や臨時教員の登用を検討している。
◆公務員の駆け込み退職
埼玉県や愛知県などで定年退職予定者が退職手当引き下げ直前に早期退職するケースが相次いでいる問題。国家公務員の退職手当引き下げ法成立(昨年11月16日)に伴い、国が地方にも引き下げを要請していた。4月以降に先送りする自治体もあるが、神奈川県は緊急財政対策に着手している現状を踏まえ、年度内実施に踏み切る考え。県内で3月末に定年退職する教員の人件費削減総額は約12億円。条例改正案は、19日開会の県議会に提案される。