<大阪・桜宮高>たたき「動物と一緒や」外部調査報告書公表
毎日新聞 2013年2月13日(水)20時22分配信
大阪市立桜宮高校バスケットボール部主将の男子生徒(当時17歳)が自殺した問題で、市教委は13日、常習的に体罰を繰り返し、自殺の大きな要因になったとして、顧問の男性教諭(47)を懲戒免職にした。弁護士でつくる外部監察チームの調査報告書も公表し、顧問が94年の就任当初から暴力を指導の一環と位置付け、複数の生徒への体罰を繰り返していたと指摘した。
体罰を理由にした懲戒免職は大阪市で初めて。全国でも異例だ。
報告書によると、顧問は自殺前日の昨年12月22日、練習試合で生徒がルーズボールを取りに行かないなどの理由で、顔などを計16〜20回たたき、「たたかれてやるのは調教されている動物と一緒や」と叱責した。
18日にも女子大学チームとの練習試合で生徒がボールを奪われるなどしたため、「なんで女に負けるねん」との気持ちで生徒の顔を数回たたいた。部員たちが書くノートに、生徒はいつも詳細に指導内容を記していたが、この日は「もうわけわからないです」としか書いていなかった。
一連の体罰を報告書は「暴力」と表現している。
顧問は生徒を、主将に就任した昨年9月以降、叱ることが増え、11月以降は「キャプテン辞めろ」などと主将交代を促していた。
市教委は生徒が重大な精神的苦痛を受け、自殺の大きな要因になったと判断。顧問が他の生徒にも日常的に暴力を振るっていたとして、12日の教育委員会会議で全会一致で懲戒免職を決めた。
一方、顧問は8日に市教委に提出した計27ページの文書で「自分の指導が一方的だったと気付いた。たたくことでチームが強くなったことから、(自分の指導方法が)間違っていなかったというおごりがあり、慢心だったと心から反省している」と記した。市教委職員が13日に顧問宅を訪れて処分を通知した際、顧問は「遺族には大変申し訳ないことをした。市教委と桜宮の関係者には迷惑をおかけした」と話したという。
また、市教委はこの日、同校の男子バレーボール部顧問の男性教諭(35)を停職6カ月の懲戒処分にした。教諭は11年に体罰で停職3カ月の処分を受けたが、昨年11月に体罰を繰り返した。市教委は今後、体罰が発覚したサッカー部の顧問や、校長らも処分する方針。【津久井達、茶谷亮、熊谷豪】
◇外部報告書要旨
■第1 12年12月18日および22日の暴力にかかる認定事実など
1 12月18日の暴力にかかる認定事実
(1)同日の顧問の暴力に関して認定した事実
大学の女子バスケットボール部などとの練習試合で、男子生徒が相手選手に飛ばされたり、集中力を欠きボールを奪われたりすることがあった。ミーティングで顧問は「何で女に負けるねん」「しっかりせえ」という気持ちから、生徒の顔を平手で数回たたいた(本件暴力(1))。さらに、生徒がルーズボールを取りに行かない態度を見せたので、ルーズボールの練習をさせたが、ボールに飛びつこうとしないので、顔を平手で1、2回たたいた(本件暴力(2))。
(2) 略
(3)平手打ちの強度に関する補足説明
生徒の練習ノートの12月18日以前の欄には指導内容が詳細に記載されているが、18日の欄には「もうわけわからないです」との記載があるのみ。19日、顧問に宛てた手紙(顧問の暴力に対する不満を述べる内容)を作成している。18日の暴力が強度なものであったことが推認される。
2 12年12月22日の暴力にかかる認定事実など(1)同日の顧問の暴力に関して認定した事実
練習試合で、生徒がルーズボールを取りに行かない態度を見せることがあった。試合の中断時、顧問はベンチに呼び寄せ「(相手選手の動きを)何で意識しないのか」などと言ったが、生徒が黙っていたので顔を平手で4、5回たたき、さらに黙っていたので顔を平手で4、5回たたいた。さらに「やるかやらんのかどっちや」と言いながら、側頭部辺りを平手で5〜7回たたいた(本件暴力(3))。最終的に「やります」と答えたので試合に戻らせた。タイムアウトで走らずにベンチに戻ってきたので、顔を平手で3回たたいた(本件暴力(4))。顧問は「たたかれてやるのは動物園やサーカスで調教されてる動物と一緒や」と言った。
(2) 略
■第2 12月18日および22日の暴力に対する評価
1 12月18日の暴力に対する評価
(1)顧問は単に怒りにまかせて暴力を加えたとの評価を免れない。平手とはいえ、相当な力が加えられていたことがうかがわれる。人前での暴力は、生徒に肉体的苦痛のみならず精神的苦痛をも与える。顧問の生徒への暴力に対する規範意識は乏しい。本件暴力(1)は学校教育法第11条に反することは言うまでもなく、正当化する余地は皆無である。
(2)本件暴力(2)も、同様に正当化する余地はない。
2 12月22日の暴力に対する評価
(1)本件暴力(3)は、顧問が多数回、生徒をたたき、意に沿う応答をするまで加え続けられた執拗(しつよう)なものと評価される。
(2)本件暴力(4)は、走らずにベンチに戻ってきたことへの制裁であると評価せざるを得ない。
(3)本件暴力(3)および(4)は、執拗かつ理不尽。生徒が重大な精神的苦痛を受けたことは明らかで、正当化する余地は皆無である。
■第3 暴力に至る経緯 略
■第4 顧問の暴力と自殺との関連性
1 顧問は生徒が自殺した12月23日の直前の同18、22日に暴力を加えている。生徒は18日、練習ノートに「もうわけわからないです」と記載しているが、理不尽な暴力を受けて相当混乱していたことを示している。また、生徒は19日に顧問宛てに手紙を書いているが、「もう僕は学校に行きたくないです。それが僕の意志です」などと切迫した思いを吐露している。生徒が顧問からの繰り返しの叱責、暴力で深く苦悩していたことは明らかである。22日に顧問から執拗な暴力を加えられ、時間的に極めて接着した23日未明に自ら命を絶ったことからすれば、顧問の暴力が自殺に追い詰めた大きな要因と考えられる。
2 任期途中での主将交代は、マイナス評価を受ける出来事で、精神的苦痛と考えられる。従って、顧問から叱責される機会が多くなったことや主将交代の話を度々持ち出されたことも、自殺に追い詰めた背景と考えられる。
■第5 顧問の暴力傾向
1、2、3、4 略
5 結論
顧問は生徒に対する暴力を指導の一環と位置づけ、指導方法として効果的であるとの考えのもと、恒常的に、平手打ち、足蹴り、物を投げつけるなどの暴力を行っていたことが認められる。
■第6 結語
顧問による暴力が認められ、暴力と自殺とに関連性が認められる。顧問には顕著な暴力傾向が認められる。したがって、顧問の教育者としての責任は極めて重く、厳重な処分が必要であると考える。