論点・焦点:体罰根絶、続く模索 県教委が教職員に研修資料 /岐阜

論点・焦点:体罰根絶、続く模索 県教委が教職員に研修資料 /岐阜
毎日新聞 2013年3月24日(日)12時53分配信

 ◇具体例のイラストや心構え 「責任、教師に押しつけ過ぎ」の声も
 「体罰は愛のムチではなく、愛の無知」−−。教育現場での体罰根絶を目指し、県教委が教職員用の研修資料を作成した。「愛情があれば許される」などと体罰を容認する意見を「誤った認識」とし、教職員がどのように指導方法を見直せばいいのかを具体的な事例やイラストを交えて示した。ただ、現場の教職員の中には「責任を教師に押しつけ過ぎ。家庭や子供自身の問題などの観点も必要ではないか」との声もあり、体罰根絶への模索が続いている。
 研修資料は全20ページ、約1万7000部が作成され、県内の公立小中高、特別支援学校の全教職員に配られた。体罰の定義や子供に与える影響、体罰根絶への取り組み方法などが書かれている。体罰の事例として、教科書でたたく▽約束事を手にマジックで書かせる▽チョークを投げつける▽給食を無理やり食べさせる−−など8項目の行為をイラスト付きで示し、「これらの行為は全て体罰です」と明記。教職員自らがチェックできる欄も設けた。
 県教委の調査では、昨年4月から今年1月末の私立も含む県内の小中高、特別支援学校で70人の教職員が計171人の児童生徒に体罰を加えていたことが明らかとなった。この調査を基に「教員の誤った認識」として三つのケース=表=を例示している。体罰が最も多い部活動の時間についても心構えを紹介。部活は教職員ではなく生徒のためにある▽指導力がないほど体罰という手段を使う▽愛のムチで生徒が成長することはない−−としている。
 資料に目を通したある高校の教師は、職員室でため息をついたという。「教師なら分かっていること。これを前提とした上で子供との向き合い方を考えるような資料にしてほしかった」と話した。
 教師は数年前、バレーボール部のレギュラーから外され、練習態度が悪くなった生徒のほおをたたいた。生徒は周囲の生徒に部活の無断欠席を強要し、「死ねばいいのに」と教師の悪口を面と向かって言うようになった。生徒の親も同調し、学校に猛然と抗議してきたという。
 教師自身も「そんな生徒を無視したり冷たく突き放したりすることが一番いけないこと」と自問し、生徒との話し合いを続けた。生徒のプレーの長所や改善点を話すと、「結局あんたの好き嫌いで選手を選んでるだけじゃん。偽善者みたいでうざい」ととりつく島もなく、ついには生徒に手を上げてしまったという。

 「きれい事で『体罰根絶』と叫ぶのは簡単。『教師が悪い』という風潮には少し違和感がある」という言葉には、今の教職員が置かれている苦しい状況が垣間見える。
 せっかく作成した資料が、机上の空論で終わらず、体罰の原因や背景を、教職員はもちろん、学校や親、そして生徒自身も真剣に考え、話し合うきっかけなればと思う。【三上剛輝】
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 ◇県教委が例示した体罰を引き起こす三つの誤った認識
 (1)自分の指導に間違いはない。悪いのは児童生徒だ
 事例:約束事を破った児童の頭を傘でたたいた▽部活動中に集団の規律を乱したため、ランニングを強要し、数回小突いた
  →約束が守れないのは指導が不十分だから▽強要や小突く行為は規律を守る姿勢につながらず、指導を押しつけているにすぎない
 (2)教師のプライドを傷つけられた。絶対に許せない
 事例:児童が注意を無視したため足払いをし、馬乗りになり押さえ込んだ▽授業中に寝ていた生徒を注意し、ふてくされたため、平手打ちした
  →体罰は指導の気持ちではなく、自己中心的な感情▽授業に前向きに取り組めないのは、分かる喜びを味わえない指導だから
 (3)愛情があれば体罰も許される。大切なのは結果だ
 事例:給食を食べない児童の口を強引に開けて食べさせた▽授業に集中しない児童のほおをつねった
  →自分の都合に他ならず、しつけとは異なる▽人権を無視した行為で「指導方法がこれ以外にない」と証明しているようなもの
3月24日朝刊

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