信州・取材前線:酒気帯び2教諭、懲戒免と停職 県人事委、ぶれた裁決 取り消し判決相次ぎ軌道修正? /長野
毎日新聞 2013年4月13日(土)12時54分配信
県内の2教員の酒気帯び運転を巡って、県人事委の裁決が分かれた。県人事委は2010年10月、長野市の元中学教諭、坪井香陽(かよ)さん(43)について、県教委の懲戒免職処分を承認する裁決を出した。一方、県教委が懲戒免職にした高校男性教諭(53)については今年3月、停職6カ月に変更する裁決を出している。飲酒し、一定時間経過後に運転という同様の酒気帯び運転で、県人事委の判断が分かれたのはなぜか。坪井さんが昨年11月、長野地裁で懲戒免職処分取り消しの判決を受けたため、重い処分から軌道修正したのでは、との見方もある。【福富智】
坪井さんについて県人事委の裁決は、検出されたアルコール分が低濃度ではなく、重大な事故に結びつく可能性があった▽酒気を帯びている可能性を考えなかったことは非難されるべきだ−−などとして、県教委の処分を承認した。
ところが、坪井さんが、処分が重すぎるとして取り消しを求めた訴訟の長野地裁判決は「裁量権の乱用」として処分の取り消しを命じる判決を言い渡した。県は東京高裁に控訴し、5月29日に判決が言い渡される。
坪井さんの地裁判決の約3カ月後、県人事委は男性教諭の処分を停職6カ月に変更する裁決を出した。飲酒後10時間半以上が経過していることなどを挙げ、「本人に酒気を帯びた状態であるという明確な認識があったとは認められない」と判断。不起訴処分だったことも考慮した。
2人の裁決が異なったことについて、県人事委は「あくまでも2人の事案は別のもの。それぞれについて状況をみて判断した」と説明。「過失の度合いなどを考慮することもあるが、人事委内でどんな意見が出たのかは言えないことになっている。2人の裁決で何が決め手になったのかは明らかにできない」と理由を公表していない。
■
「坪井先生の免職処分取り消し訴訟を支援する会」の橋本明典・前事務局長は「坪井さんの裁決は、飲酒運転に厳しい世論に影響されたものだと思う。(処分が軽くなった)男性教諭の裁決は、坪井さんの訴訟との整合性をとったのではないか」と推測する。
公務員の酒気帯び運転を巡っては、各地の裁判所で「原則免職」とする自治体に対して「裁量権の乱用」などとして懲戒免職処分を取り消す判決が相次いでいる。秋田地裁は12年3月、飲酒運転を理由に元小学校教頭と元高校教諭を懲戒免職処分とした県教委に、処分取り消しを命じた。
信州大法科大学院の又坂常人教授(行政法)は「近年の酒気帯び運転と公務員に対する厳しい世論のため、自治体は厳しい処分をするのではないか。それに対し、裁判所は『重すぎる』と判断したのだろう」と分析する。2人の処分が異なったことは「事情が違うので判断は難しいが、アルコール残量や刑事処分の有無などが考慮されたのではないか」と話した。
………………………………………………………………………………………………………
<メモ>
◇2教員の酒気帯び運転
判決によると、坪井さんは09年4月10日午後6時半〜同11時半、長野市で友人と飲酒した。翌日午前7時半、自分の車を運転して財布をなくしたと交番に届け出た際、呼気1リットル当たり0・3ミリグラムのアルコール分が検出され、道交法違反罪で罰金30万円の略式命令を長野簡裁で受けた。
男性教諭は10年3月に山梨県内のホテルであった送別会で飲食し、宿泊。翌日、酒気帯び運転で山梨県警に検挙されたが、不起訴処分となった。検挙の際の検査では呼気1リットル当たり0・2ミリグラムのアルコール分が検出されていた。
県教委は2人の懲戒免職処分を決定。2人は「重すぎる」として、それぞれ、県人事委に審査を請求した。
………………………………………………………………………………………………………
坪井さん 男性教諭
裁決日 10年10月18日 13年3月5日
呼気1リットル当たりアルコール濃度 0.3ミリグラム 0.2ミリグラム
最後の飲酒から運転までの時間 7時間半 10時間半
刑事処分 罰金30万円の略式命令 不起訴
県教委の処分 懲戒免職 懲戒免職
県人事委の判断 県教委の処分を承認 停職6カ月
4月13日朝刊