<部活動指導指針>「現場浸透」鍵に 改革「待ったなし」
毎日新聞 2013年5月27日(月)21時5分配信
文部科学省の有識者会議が27日にまとめた運動部活動指導のガイドライン。今後、部活動の現場にどう浸透させていくかが、実効性の鍵を握る。
「改めて体罰根絶は徹底してもらう。これ(ガイドライン)によって指導者は萎縮せず、積極的、効果的指導が行われることを期待している」と有識者会議の席上、下村博文文科相は述べた。
自らの経験に頼りがちな指導が生徒に適切かどうか、ガイドラインにはその「答え」を見いだすための活用が期待されている。有識者会議の座長を務めた友添秀則・早大スポーツ科学学術院長は「経験に偏った独りよがりの指導がはびこっている。部活動改革は待ったなしだ」と話す。
また、中学生の約65%、高校生の約42%が加入している部活動の現場まで、ガイドラインをどのように行き渡らせるかも課題だ。全国高校体育連盟の三田清一名誉顧問(前会長)は「体罰、暴力によらない指導を推進していく新たなスタート。理事会や評議員会、各競技の専門部で徹底する。コーチングなど科学的知見に基づいた講習なども検討する」と実効性の向上を図る。日本中学校体育連盟の塩田寿久専務理事も「夏の全国中学校大会でも暴力根絶の徹底を呼びかける。また、競技会場に暴力行為根絶の内容を記した横断幕を掲げる案もある」と語った。
一方で、ガイドラインが理想を追求しすぎ、現実にマッチしていないとの意見もある。例えば、教員以外の「外部指導者」について、ガイドラインは「トレーナーなどの協力を得ることも有意義」と記した。このことについて、日本高校野球連盟の西岡宏堂審議委員長は「費用などの問題については何も触れられていない。間違った部分はないが、理想論になっている面もある」と指摘する。「理想」をどう現場に根付かせるか。ガイドラインを育む力も現場に問われる。【石井朗生、芳賀竜也】
◇部活動ガイドラインに盛り込まれた指導例◇
【認められる】
・バレーボールでの反復レシーブ練習
・柔道で初心者への受け身練習の繰り返し
・遅刻を繰り返した生徒を試合に出さず見学
・試合中、相手に殴りかかろうとした生徒を押さえつける
【認められない】
・熱中症多発期に給水なしの長時間ランニング
・長時間の無意味な正座や直立、反復行為
・言葉や態度による脅し・身体や容姿、人格を否定するような発言
◇学校側も意識改革を
部活動の指導ガイドラインは「指導か体罰か」の例を国レベルとして初めて示した一方で、顧問教諭個人の資質と献身的な努力に大きく依存している部活動の現状については、改善への明確な道筋が見えてこない。選手への配慮が必要なのはもちろんだが、いわゆる「勝利至上主義」に起因する過度な期待を生む土壌への対策も必要だ。
部活動は学習指導要領で「学校教育の一環」と位置づけられていながら、その指導は放課後や休日など、授業時間外がほとんどを占めている。この日、文科相に提出された報告書では現在、休日に4時間程度指導すると支給対象になる部活動指導手当(日額2400円)について「努力に応じた処遇がなされるよう、関係手当の一層の充実が必要」と明記したが、それだけで問題が解決するとは到底思えない。
問題はむしろ、校長ら管理職にあるのではないか。ガイドラインでも「学校教育の一環であることを踏まえ(中略)部活動の意義、運営、指導のあり方について理解を深めることが必要」とうたった。私立学校では、部活動の成績が学校経営につながる生徒募集の実績に結び付きやすい。管理職の視線が「勝利至上主義」に向かうことも否定できない。
成績を求める学校側と、伸び悩む選手の板挟みになり、苦悩の結果として指導者の体罰を生んだ事例もある。昨今の競技団体と同様、部活動を有する学校にも、マネジメント能力が求められている。【芳賀竜也】