中国人留学生を優遇し、日本人を追い込む矛盾

中国人留学生を優遇し、日本人を追い込む矛盾
東洋経済オンライン 2013年7月31日(水)8時0分配信

 日本人はどうやって日本人になるのだろうか?  そんな誰もが意識したことがないことを、グローバル化という視点でとらえていくとどうなるだろうか?  21世紀のグローバル化が私たちに突きつけている問題は、国際標準語(英語)を話す国際人になることではない。日本人という確固たるアイデンティティを持って、世界を舞台に活躍できる人材になることだ。
 しかし残念ながら、日本で日本人の両親から生まれ、日本の教育を受けて育つと、真の日本人にならない。一人娘をアメリカと中国の教育で育てたジャーナリストが、その経験を基に、日本人とは何かを問いかける。

■ 中国人留学生のホンネ

 現在、日本に中国からの留学生がどれくらい来ているかご存知だろうか? 

 なんと約9万人である。都内のコンビニ、居酒屋、ファミレスなどでバイトしている中国人店員の多くは、中国人留学生である。しかも、彼らの多くが私たちの税金(政府の留学生支援政策)で、日本に来ている。

 安倍内閣は、教育改革で「グローバル人材の育成」を掲げている。しかし、実際には中国人を含むアジア人留学生のグローバル化ばかり支援して、日本人学生のグローバル化の面倒はみていない。そこで、今回は、連載の主旨とは少々はずれるが、この問題を取り上げてみたい。

 私の娘は、ときどき仕事の疲れを癒すため、都心の深夜でも営業しているマッサージ店に行く。そうすると、そこで働いている店員は、たいてい中国からの留学生である。娘は中国語が話せるので、そんな留学生の話を私にしてくれることがある。

 たとえば、六本木で深夜まで営業している中国式足裏マッサージ店で働く20代の女性店員は、都内の有名私立大学に通う黒龍江省出身の中国人留学生。「マッサージ店では午前3時まで働き、その後、帰って寝て、朝9時半から学校。午後は3時からコンビニでバイトして、夜8時にまたマッサージ店に来る」という生活を送っているのだという。

 それで、「なんでそんなに働くの? 」と聞くと、「早くアメリカの大学に行きたい。その留学費用を稼いでいる」とのこと。じつは、留学生の就業は週28時間を超えてはならないという規定があるが、「それを守っていたら、次のアメリカ留学の費用が貯められない」のだそうだ。

 一口に中国人留学生といっても、三種類の学生がいる。一つ目は、日本経由で欧米進学を目指す学生。二つ目は、日本留学だけの学生。三つ目は、留学とは名ばかりで日本に稼ぐためだけに来ている学生だ。

 ただ、この三者に共通している点がある。それは、みな一番手の学生ではないこと。二番手、三番手、あるいは落ちこぼればかりだということだ。

 中国では、留学を目指す一番手の学生は、みな欧米の一流大学を目指す。日本など見向きもしない。

■ 中国人留学生への手厚い保護

 では、なぜ、日本に中国人留学生が増えたのだろうか? 

 それは、2008年に日本政府が鳴りもの入りで「留学生30万人計画」を始めたからである。当時の福田康夫首相はグローバル戦略(グローバル戦略は安倍内閣の専売特許ではない)の一環として「2020年までに留学生を30万人に増やす」ことを提唱、文科省はその実現に向けて2009年度から国の予算を投入した。

 海外の学生が留学しやすい環境への取組みを行う「拠点大学」を選定し、これに財政支援。審査で選ばれた東大、京大、早稲田などに、年間 2〜4億円交付するとともに、留学生に奨学金を出すようになったのだ。

 政府が投入している予算は、現在、年間約300億円。これが、留学生集めに使われている。

 まず、国立大学の場合、国費留学生の授業料はほぼ無料である。私大なら3割限度の減免。また、修士課程、博士課程、 研究生といった大学院留学生には、月額15万円〜15万3000円、教員研修留学生にも月額15万2000円が支給されている。また、学部学生、高等専門学校留学生、専修学校留学生にも月額13万3000円が。驚いたことに、日本語学校生徒にまで月額12万5000円が支給されているのだ。

 さらに、渡航飛行機代(往復)まで出しているのだから、こうなると、あまりのことに唖然とするしかない。

■ 留学生を自国生よりも優遇する国はない

 OECDの統計によると、欧米の大学の場合、外国人留学生は自国の学生に比べて平均約3倍の授業料を払っている。オーストラリアは自国民の授業料が円換算で約45万円に対し留学生は約130万円、カナダは約36万円に対し約95万円、イギリスは約22万円に対し約170万円である(これは平均であって、一流大学となれば授業料は跳ね上がる)。

 これが先進国の常識であり、留学生を自国学生より優遇する国などない。アメリカの場合、アイビーリーグなどの一流大学となると、授業料は最低でも4万ドル(約400万円)はする。これではいくら奨学金が充実しているとはいえ、ほんの一握りの超優秀学生(授業料が免除になったりする)を除いて、一般家庭では、子供を留学させるのは大変だ。

 アメリカの場合、家庭の収入により授業料をスライド式に安くする制度がある。しかし、これは留学生には適用されない。また、州立大学では州民の授業料を安く設定し、州外学生、留学生などの授業料とは差をつけている。したがって、国費留学、企業からの派遣留学でない場合、授業料と生活費の支払いで、親の負担は大変だ。

 私の娘は数校の大学に出願し、合格したうちの2校から奨学金を出すという申し出を受けた。いきなり国際電話がかかってきて、「1万ドルの無返済のスカラシップを出すから来ないか」と言われた。しかし、その申し出があったのはストーッパー(滑り止め)として受けた西部の学校だったので、断った。妻は「もったいない」と言ったが、やはり、東部の志望校に行かせたかった。

 合格して進学を決めたベイツカレッジ(メイン州)からは、奨学金がもらえなかった。そこで妻は、娘がアメリカ留学中、「盆暮れに帰ってくる飛行機代ぐらい稼いであげなくちゃ」とパートに出た。

 私の従姉妹の息子は、ブラウン大学から奨学金を支給された。しかし、全額ではなかったので、従姉妹は年間2〜3万ドルは仕送りしていた。だから、ドル円レートが10円でも円高になれば、「よかったわ」とため息をついた。

■ 日本には見向きもしない、富裕層の日本人

 話を中国人留学生に戻す。

 2008年、日本政府の「留学生30万人計画」が発表されて、その内容が明らかになると、中国では一気に日本留学ブームが起きた。「こんなおいしい話はない」と、学生たちが日本大使館に殺到し、2009年4月の留学ビザ取得率は前年同期より12%もアップした。日本留学斡旋所も連日大盛況で、日本語学校は学生数が2倍になったところも出た。

 独立行政法人日本学生支援機構によると、現在、日本には約14万人の留学生がおり、そのうち中国人は約9万人で、じつに全体の70%近くを占めている。次いで韓国(約5%)、台湾(約4%)、ベトナム(約2.5%)の順で、欧米圏からの留学生はわずかしかいない。つまり、「留学生30万人計画」といっても、その実態はアジア人留学生ばかり、とくに中国人のための留学制度と言ってもいいのだ。

 私の娘は、ベイツカレッジを卒業後ジョンズホプキンズ大学のSAIS大学院に進学し、米中関係を専攻して中国の南京大学に留学した、それで私も何度か南京に行ったが、そこで出会った中国人学生たちは、みなアメリカへの留学を希望していた。日本へ留学したいという学生はほぼいなかった。

 中国で人気の留学先はアメリカ、カナダ、イギリス、オーストラリアという英語圏が中心。アジアでは香港とシンガポール。日本はその次で、資金力がある富裕層の子女は日本には見向きもしない。前記した都心のマッサージ店でバイトしている留学生の場合は、実家が貧しく、奨学金が出るので日本に来たが、本当はアメリカに行きたかったのである。

現在、日本の大学の卒業生は就職で「超氷河期時代」を生きている。端的に言えば、偏差値50以下の学校を出た学生は正社員になれない時代になっている。

 そんななか、中国人留学生は引く手数多だ。法務省の統計によると、2010年に日本で就職した中国人留学生は4874人、11年には5344人となっている。年々増加しているのである。

 とはいえ、中国人留学生のうちの一番手はアメリカに行き、その次は中国に帰り、残った者が日本で就職しているというのが、真相だ。つまり、日本企業は中国人留学生のうちのたいしたことのない人材を、喜んで採用しているのである。

 しかし、この問題が深刻なのは、そもそも中国の二番手の学生が日本に来て、その二番手のうちの底辺の学生にさえ、日本の学生はかなわないということである。

■ 日本の底辺大学の延命に使われる

 こういう話を、さる大学関係者から聞いたことがある。

 「中国の留学生に使われているカネは、じつは日本の底辺大学を生き延びさせるために使われているんです」

 首都圏にはいくつかの底辺大学がある。そのうち、中国人留学生比率が4割を超えているどん底大学では、これで定員割れを防いでいるのだという。なにしろ、彼らは国から奨学金が出ているので、授業料の取りぱくれがない。それで、なんとか経営が成り立つという。

 また、さる地方の底辺大学は日本人学生の中退率が5割を超えているが、学生の8割が中国人留学生だから心配ないという。

 ここで思い出すのが、2010年に青森大学で発覚したである。では、2008〜10年度に、通学実績のない中国人留学生140 人を除籍処分にしていたことが発覚し、学長が謝罪記者会見を行なった。

 処分された学生のほとんどは中国人留学生で、入学後、青森県外(主に東京)に出て働いており、「授業にまったく参加せず、アルバイトばかりしているために除籍処分にした」ということだった。

 ニセモノならなんでもありの中国では、偽造学生証や偽造在学証明書、偽造成績証明書が簡単に手に入る。これを入手して、日本の奨学金を得て、日本に来ているニセ留学生は、けっこう多いのだ。

 そういうニセ証明書を、日本の大学関係者が見抜くのは難しい。しかも、少子化で経営が悪化しているのだから、たとえ見抜いたとしてもスルーではないだろうか。

 最近、生活苦で学生時代に借りた奨学金の返済に困っている若者が増えているというニュースが続いている。日弁連では、今年の初めから、奨学金の返済問題に関する電話相談を実施している。

 本来は、有望な若者の修学を支援するためにある奨学金。これが今、逆に若者を“追い込む”原因になっているというのだ。

 日本学生支援機構は、年収300万円未満の利用者に対しては返済猶予期間を与えている。しかし、2009年から2010年に6カ月以上の滞納者を調査したところ、年収300万円未満が87.5%で、その半分近くが100万円未満だったという。つまり、返したくても返せない若者が大半なのである。

 こうした事態にネットではスレが立ち、「借りた金は返せや屑野郎」「奨学金を貰わないと大学行けない奴が受験すんなよwどんだけ貧乏人なんだ」「月4万を13年かけて返すんだがマジで苦しい」「日本の高等教育の費用があまりにも高すぎる 国立入っても年間何十万も払わされるっておかしいだろ 奨学金がどうのこうのの話じゃないわ」などいう声が飛び交っている。

 安倍政権は、「グローバル人材」をつくる教育を推進するという。しかし、現在の実態は、国民の税金をできのよくない中国人の若者に与え、向学心のある日本人の若者を支援せず、あげくの果てに「本来なら潰れている大学」を支えるために使っているのだ。

 これでは、グローバル人材は、国に頼らず、自分たち自身で育てていくしかないだろう。?

山田 順

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