柔道事故後絶たず 元指導員有罪 安全教育徹底課題

柔道事故後絶たず 元指導員有罪 安全教育徹底課題
東京新聞 2014年5月1日 夕刊

 長野県松本市の柔道教室で教え子に投げ技をかけ、重度障害が残るけがを負わせたとして、業務上過失傷害罪で強制起訴された元指導員に有罪を言い渡した長野地裁判決は、柔道での指導中の事故防止に重い課題を突き付けた。専門家によると、柔道中の事故は長年「不慮の事故」として見過ごされてきたといい、子どもへの安全な指導方法の徹底が求められる。
 学校内事故に詳しい名古屋大大学院の内田良准教授は二〇〇九年九月、部活動などで一九八三〜〇八年度に百六人が柔道による事故で死亡した実態を初めて公表し、衝撃が広がった。
 四月三十日の長野地裁判決によると、当時小六だった沢田武蔵さん(17)が稽古中、指導員だった小島武鎮被告(41)に片襟体落としで投げられ、急性硬膜下血腫で重度の意識障害に陥った。内田准教授によると、この松本市の事故と同じように、頭にけがを負う共通点が多く、「教訓はその都度生かされてこなかった」と指摘する。
 全日本柔道連盟(全柔連)は一〇年に「安全指導プロジェクト特別委員会」をつくり、翌年には指導書を改定。頭部外傷を防ぐ指導法を詳しくした。
 そんな中、安全指導で模範とされるのが、バルセロナ五輪金メダリストの古賀稔彦さんが開く町道場「古賀塾」(川崎市高津区)だ。子どもの能力や体格に応じた指導を徹底し〇三年の開場以来、事故はゼロ。
 古賀さんは「事故は指導者の監督不足で起きる。うちでは指導者に足る考え方や技術を持つまで二、三カ月間、子どもの指導はさせない。指導者は子どもの体格や技能を見極められる危機管理能力を養わなくてはいけない」と語る。
 しかし実際はこうした道場ばかりでなく、重大な事故はなくならない。ことし三月には、沖縄県で小学三年の男児(9つ)が急性硬膜下血腫を発症し意識不明となる事故が起きた。
 全柔連は昨年から資格制度を導入し、指導者に講習会出席を義務付けたが、全国柔道事故被害者の会の小林恵子事務局長は「講習会はポーズにしか見えない。末端まで安全教育が行き届いていない」と語る。
 フランスで指導経験がある静岡文化芸術大の溝口紀子准教授は「日本は指導者任せな部分が多い」と指摘する。柔道競技人口が日本の三倍というフランスでは、指導者は国家資格が必要となる。国が指導者を厳しく管理するため、重大事故は存在しないという。
 「発達段階で教える技や練習量が明確に決められ、違反すれば罰則もある。日本も安全な指導法を徹底できるよう全柔連がさらにイニシアチブを発揮してほしい」と提言した。 (酒井博章)

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