柳川市立学校で集団的自衛権反対署名集め 福岡
産経新聞 2014年8月29日 7時55分配信
福岡県柳川市の市立学校で、集団的自衛権行使容認の閣議決定に反対する署名集めが行われていたことが明らかになった。教育公務員特例法に抵触する恐れがあるにも関わらず、市教委幹部職員から依頼されたすべての校長が応じ、市教委も口頭注意という甘い処分で幕引きを図る。公教育の場における「政治的中立性」に対する意識の低さが改めて浮き彫りになった。(津田大資、奥原慎平)
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「安倍政権は、2013年12月、多くの反対の声を無視して、憲法の三原則である国民主権や基本的人権を侵害する特定秘密保護法を強行採決・成立させました。さらに、もう一つの原則平和主義を規定した憲法9条をも空文化する解釈改憲による集団的自衛権行使容認へと踏み込もうとしています」
柳川市教委の幹部職員が、反戦団体「戦争を許さない福岡県民委員会」のサイトからダウンロードしたという用紙には、政治色の強い文言が並ぶ。この用紙を職員室など学校現場で回覧していた。
一連の問題をめぐり、市教委と校長の説明には、食い違いが目立つ。最大のものは、幹部職員が校長に署名を依頼した際のやり取りだ。
関係者によると、複数の校長が「幹部職員から『教育長と教育部長の承認を受けている』と言われ、署名集めに応じた」と証言したという。黒田一治教育長や幹部職員らは否定するが、別の教育関係者は「校長全員が、幹部職員の個人的な依頼に応じたとは考えにくい。実際に承認があったか、幹部職員が『教育長らの承認がある』と虚偽の説明をしたと考える方が合点がいく」と指摘した。
食い違いは他にもある。
市教委は、署名に協力した24人の校長に、口頭注意をしたとする。これに対しても複数の校長は「明確な注意は受けていない」との認識を持っているという。
産経新聞が実施した柳川市立小中学校全25校への調査では、24校のうち4校が朝礼時など明確に勤務時間内に署名を集め、6校は「昼休み時間」や「職員会議後」などあいまいだった。14校は「時間外」としている。
また、2校の校長は署名集めについて教育公務員特例法に抵触するとの認識が「あった」と回答した。
柳川市の教育現場は、教職員組合をはじめ、左派の影響力が強いといわれる。
昭和40年代、柳川市内にある福岡県立伝習館高校の一部の教師が、定期テストで「社会主義社会における階級闘争」の論述問題を出すなど、教科書の不使用や学習指導要領を逸脱した授業をしていたことが明らかになった。県教委はこうした教師のうち3人を懲戒免職処分にした。
3人は昭和45年12月に処分取り消しを求めて福岡地裁に提訴。1、2審は教師の裁量を広く認めて2人の処分を取り消したが、最高裁は平成2年1月、「処分は適法」とする逆転判決を言い渡した。
また、国旗国歌法が施行された平成11年8月以降も、柳川市の市立小中学校では国旗を掲揚しない学校が複数あったという。
地元教育関係者は「柳川市の教育現場で払拭しきれていない慣習のようなものが、今回の問題の遠因ではないか」と嘆く。
教育公務員特例法は、公教育の政治的中立性維持を目的に、教職員の政治活動を制限する。
柳川市の公教育の現場で集めた署名は、「戦争を許さない福岡県民委員会」に提出された。
同会は、閣議決定があった7月1日、「憲政史上の暴挙である。憲法制定権者であり、主権者である国民への挑戦だ。のみならず、憲法改正の発議権をもつ国会さえ無視した。この手口は、かつてドイツの民主的なワイマール憲法を崩壊させたヒトラーを想起させる」などとする抗議文を発表している。
同会の行動は政治的に中立とはいえず、学校現場での署名集めは、特例法に抵触する可能性が極めて濃厚だ。問題の背景にある市教委と学校現場の馴れ合い体質の是正が求められる。
柳川市議の緒方寿光氏は「口頭注意で済まされる行為ではない。市教委は今回のケースが異常であることを認識し、徹底した事実検証をする必要がある」と語った。緒方氏は9月1日に定例議会本会議の一般質問で、一連の問題を追及する。