また「東工大」で研究費不正 “異色経歴教授”の金への執着

また「東工大」で研究費不正 “異色経歴教授”の金への執着
産経新聞 2015年1月3日 19時0分配信

 研究費の架空請求が発覚したのは、またも東京工業大学だった。業者と結託して国から交付された研究費をだまし取ったとして、詐欺容疑で、元教授の岡畑恵雄被告(67)ら3人が逮捕、起訴された事件。平成23年に当時の副学長らによる同様の架空請求が発覚したが、岡畑被告はその後も裏金づくりを続けていた。総額は7000万円に上るとみられる。学内で「研究熱心」と評された元教授は裏金づくりにも“熱心”だったようだ。

 ■自ら業者に持ちかけ、10年以上の蜜月関係

 話は少なくとも10年以上前に遡(さかのぼ)るる。東工大の教授として、水晶を使ったセンサーを開発するなど着実な研究生活を送っていた岡畑被告。かねてから実験用試薬の納入などで懇意にしていた東京都内の化学製品販売業者「東光化成」の担当者に、こう持ちかけた。

 「試薬を発注したことにしてくれないか」

 嘘の発注による架空請求は、当時から他の大学でも横行していた悪弊だった。

 仕組みはこうだ。岡畑被告は、東光化成と結託して試薬などを発注したとする嘘の請求書を作成。大学などから研究費を引っ張り出し、支払った代金を東光化成に管理させる。「預け金」と呼ばれる不正経理で、裏金づくりの典型的な手法だ。岡畑被告が私的に使ったり、東光化成側も事業の運転資金に充てたりする蜜月関係は25年ごろまで続いたが、東光化成側の申し出で終わったという。

 東工大の刑事告訴を受けた警視庁捜査2課は今年11月、詐欺容疑で岡畑被告らを逮捕し、東京地検が12月に起訴。起訴事実は請求書を偽造して東光化成から薬品などを購入したと装い、21〜22年、研究費約1490万円をだまし取ったとしている。

 捜査2課の調べでは、他にも複数の業者と結託して架空請求を繰り返していたとみられる。別の業者との取引では20〜25年に約1900万円を架空請求。研究室に所属していた卒業生の口座に振り込ませ、秘書に引き出させるなど組織的にだまし取っていたといい、総額は7000万円を超えるとみられている。

 ■「お金もうかってるでしょうと言われることがある」

 親族のマンション、高級車…。岡畑被告は研究費名目で手にした金を元手に自らの欲望を次々に満たしていったが、岡畑被告が異色の経歴の持ち主だったためか、周囲には不自然な出費とは映らなかったようだ。

 岡畑被告は昭和52年に九州大で工学博士号を取得後、九大や米カリフォルニア大学などを経て、57年に東工大で助教授となり、その後教授に就任。学内では「研究熱心」と評判だった。

 水晶に電気を流すと、水晶に付着した物質によって振動数が変わる「水晶発振子」を使った研究では、匂いなどを精密に測定できるセンサーを開発。センサーを使ってサッポロビールが、ビールの「コク」と「キレ」を客観的に比較する装置を作るなど、実生活にもインパクトのある研究だったという。

 平成11年には水晶発振子の研究が高じて、当時としてはまだ珍しかったベンチャー企業を関連企業と一緒に設立し、センサーの販売を開始。学内のインタビューでは「東工大は日本で一番そういうのに向いているはず」とさらなるベンチャー起業に期待を込める一方、「お金もうかってるでしょうと言われることがある」と告白している。

 岡畑被告は25年3月まで東工大に奉職。その後も別の大学で研究を続けた。

 ■ブログや学内レターに金銭絡みのエピソード多数

 「私は『日本に帰る飛行機代もありません』と駄々をこねた」

 25年3月に発行された東工大生命理工学研究科のニュースレターに岡畑被告が寄せた随筆からは、金銭への執着が垣間見える。

 「定年を迎えて」と題して岡畑被告を含めて4人の教授がニュースレターに思いを寄せたが、研究にまつわるエピソードを振り返る他の3人に対し、岡畑被告は研究費や留学時の渡航費など、大半を金銭にまつわる話に費やしていた。

 ニュースレターでは、「研究費として15億円を費やし(主として国民の税金と企業からの寄付金)、352報の原著論文を出したので、1報あたり430万円を費やしている」「学生1人あたり900万円を費やした」などの言及が続き、「研究費は彼らを育てるために有意義であったと信じたい」と結ばれる。

 ブログでも、金銭絡みのエピソードが続く。

 「昭和57年 最初は借金の山で、5年かかって借金を返済」「平成4年 研究費を集めるのが大変になる」「15年 新しい研究施設を貸与される 引っ越しで思わぬ大金が必要になり、しばらく節約」

 苦労して集めた15億円の少なくとも数%が自らの私腹に費やされていたことには無論、触れていない。

 ■防止策の裏をかき、不正を続行

 東工大では23年、当時の副学長らによる「預け金」などの研究費不正が発覚。次期学長に内定していた工学部長の不正も発覚し、学長の辞退にまで発展し、管理体制を見直したばかりだった。

 24年に不正防止計画を定め、教職員らに研究費使用に関するハンドブックを配布。25年4月からは、請求のあった物品が実際に購入されたかどうかを確認する検収の対象を全品に拡大するなど改善策を講じてきた。

 だが、岡畑被告は、こうした防止策の裏をかいていった。岡畑被告は50万円未満の物品については教員が複数の見積もりをなしに発注できることに注目し、東光化成への発注額を50万円未満に抑制。発注した物品については、一度大学側に見せて検収を終えた上で返す方法で欺いていた。

 今年11月、大学の事業を評価する文部科学省の審議会「国立大学法人評価委員会」は、「その他業務運営」の項目について、対象となった90大学法人中で唯一、東工大にだけ不正経理などの問題で「重大な改善事項がある」とする5段階で最低の評価を下した。

 一連の不正発覚を受けた文科省の調査結果は、不正が東工大だけにとどまらないことを示している。文科省によると、25年11月時点で、47の大学・研究機関の154人による不適切経理が計約5億7500万円分判明した。

 大学関係者は「貴重な研究費を不正に使うことは、善良な研究者の研究費を奪うこと。最終的には研究レベルの低下を招く」と嘆いている。

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