<群馬大病院>05年に生体肝移植事故 防止策実行せず

<群馬大病院>05年に生体肝移植事故 防止策実行せず
毎日新聞 2015年3月11日 10時47分配信

 群馬大医学部付属病院が、2005年の生体肝移植の医療事故の後に「再発防止策を取り、手術再開を目指す」と表明しながら防止策を実行せず、移植手術再開を見送り続けていたことがわかった。病院は当時も、第1外科と第2外科が別々に手がけていた移植手術の一本化を打ち出したが実現せず、他の対策も十分に実施されなかったとみられる。

 生体肝移植の医療事故は、腹腔(ふくくう)鏡・開腹手術の問題が昨秋発覚した第2外科ではなく、第1外科で起きた。大学によると、05年11月に男性助教が、夫に肝臓の一部を提供した50代女性の摘出手術を執刀。血液凝固阻止剤の過剰投与により、女性は術後に下半身まひとなった。

 助教は事故発覚後、生体肝移植の経験について「国外では手術室に入ったがメスは握っていなかった」と明かした。実際は補佐的な立場で37例に関わった経験しかなかったが、病院ホームページに「国内外で620例以上の肝移植経験」と虚偽掲載していた。

 さらに検証委が99年11月〜06年6月に移植を受けた患者を調べた結果、第1外科で35人中14人が退院できず死亡、ドナーにも胆汁の漏れなどの合併症や、手術中に3〜8リットルの大量出血が起きたケースがあった。患者が死亡した原因として、執刀医の技術が未熟だった疑いが指摘された。

 病院は当時、再発防止策として、移植手術の一本化のほか、手術前の倫理委員会の徹底▽常設の検証委の発足−−を挙げた。しかし、退職済みの執刀医を10年2月に「停職1カ月相当」とした際、当時の病院長は「全ての医療を最高水準に維持するのは困難で、そうでなければ患者の不利益になりかねない」と発言し、手術再開に否定的な意向を示したという。

 一方、今月3日に公表された腹腔鏡手術の最終報告書では、保険適用外の新技術にもかかわらず院内の審査委員会に届け出なかった▽死亡した8例で死亡症例検討会が実施されなかった−−といった同種の問題が指摘された。

 今回問題となっている40代男性医師は、3回目以降の腹腔鏡手術は、部下の若手医師と2人体制で、90例以上の難度の高い手術を継続。術後100日以内に8人が死亡した。

 遺族の弁護団の一人は「当時(第1外科、第2外科の)ナンバー制が問題視された以上、手術を再開せずとも何らかの改革を実行できなかったのか。再発防止を図れず今回の事故を起こした病院の責任も問われるべきだ」と話している。

 昨秋発覚した腹腔鏡手術問題では、調査委員会が最終報告書で「第1、第2外科が閉鎖的に独立し、情報共有もされず、人材が分散されていた」と指摘した。病院は今年4月からナンバー制を廃止し、診療科を臓器別に再編成することを決めた。

 これに対し遺族側弁護団は「なぜ同じ原因の事故が再発したのか検証が不十分だ」と批判し、調査継続を求めている。【尾崎修二】

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする