論文無断使用 繰り返す不正、打つ手なし 早大、処分に差異 問題矮小化か
産経新聞 2015年11月12日 7時55分配信
STAP細胞論文をはじめとする研究者の論文不正が相次ぐ中、新たにが明らかになった。同院では昨年も教員による論文不正が判明しており、2年連続の不正発覚に早大は対応に追われている。安易に不正に走る希薄な倫理観。大学側も危機感を抱いているが、決定的な対策は見いだせていない。
早大は、STAP細胞に関する論文で研究不正行為が確定した理化学研究所の元研究員、小保方晴子氏(32)に対し、過去に博士号を授与。今月2日に開いた会見で、小保方氏の博士号を取り消したことを明らかにしている。
その際、平成18年度以降に提出された博士論文2789本を自主調査した結果も公表。引用不備などで訂正が必要な論文が89本あったものの、学位取り消しの対象となる不正はなかったと説明していた。
商学学術院では、昨年11月にも同院の別の男性准教授による論文不正が発覚している。商学部が発行している紀要(論文集)「早稲田商学」で13、15年に発表した2本の論文に米国の他の研究者の論文を盗用したというもので、早大は男性を懲戒解雇処分にした。
男性はこの処分を不服として今年4月、早大を相手取り、不当解雇を訴えて東京地裁に提訴している。
今回、同じような不正使用にもかかわらず、大学側は今回の男性准教授の処分を停職4カ月とする方向で検討しているという。
大学関係者によると、男性准教授の処分方針を決める商学学術院の教授会では、不正認定した内部調査委員会の報告書や論文そのものは配布されず、「故意に流用したとは言い切れない」などとする准教授側の主張が書かれた資料が配られた。大学側は「准教授本人が(流用を)認めているので論文そのものなどは必要ない」と説明したという。
懲戒解雇となった男性の弁護士は、「10年も前に学内で発表した論文不正が免職で、数年前に学会で発表した論文が停職4カ月では扱いが違い過ぎる」と訴えた上で、「処分に基準がなく、雰囲気で決まってしまう面があるのでは。STAP細胞問題のあった昨年は厳罰姿勢で、今年は逆にストップがかかっている可能性がある」と話す。
大学関係者も「2年連続で懲戒解雇者を出したくないという意識が働いているのではないか」と指摘。早大広報課は今回の不正問題について、「(事実関係は)否定しないが、処分が最終的に決定していないので、詳細は答えられない」としている。
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■倫理観希薄、安易なコピペ横行
大学の教育現場では、盗用や捏造(ねつぞう)などの論文不正が後を絶たない。インターネット上にあふれる情報の安易なコピー・アンド・ペースト(コピペ=切り張り)も横行し、大学側も対応に追われている。
文部科学省によると、平成26年度に大学などから報告があった教員や研究者による論文不正は12件に上る。今年度にも、したり、するなど、計4件の論文不正が表面化している。
相次ぐ論文不正の背景について文科省は、研究者倫理が希薄▽研究活動の作法の教育が不十分▽競争環境の急速な進展に伴う自浄作用の鈍化−などを指摘しているが、「論文不正が必ず見つかるという意識がまだ低い」(幹部)との声もあり、不正防止に向けた有効な手立てを模索しているのが実情だ。
学生の間にも論文不正は広まっているようだ。東京大学は今年3月、同大のホームページ上で教養学部後期課程(3〜4年生)の学生の一人が提出した期末リポートの約75%が、ネット上の他人の文章からの引き写しだったことを明らかにし、波紋を広げた。
大学の間では学術論文のデータベースと照合して盗用を検知するシステムを導入するなど、コピペ防止対応に追われている。