生徒に何発も…「王国」が生む配慮や加減ができない教師 開善塾教育相談研究所顧問・金澤純三
産経新聞 2015.12.23 09:58
開善塾教育相談研究所顧問 金澤純三氏
暴力はクセになりやがてマヒすることがある。生徒は現在、学校が怖くて登校できない状態であるという。教師については前任校の校長から以前体罰があったという連絡が入っていたそうである。
もし現校長がきちんと指導し、注意を払っていればこんな悲惨な事件は起きなかっただろう。どうして学校から体罰という傷害事件がなくならないのか。いくつもの理由が考えられるが、日本の学校のクラスはあたかも一つの王国のようで、他の王国からはとても口出しなどできない雰囲気があるのである。こういう閉塞(へいそく)状況を打開するには教員が常に自己研鑽(けんさん)を積む以外にはないのではないか。
何のために、誰のために、どのような教師になるべきか。本来、教員には研修の義務があると思うのだが、そんなものはしなくてもよいと思っている人たちもいる。校内に若い教師や中堅を指導できる管理職が少なくなったのかもしれない。研修したくても時間がないと思い込んでいるのかもしれない。手軽に研修できるところが身の回りに少ないのかもしれない。
かつては冬になるとストーブを囲んで先輩たちの話を聞き、その知恵や技を知らず知らずのうちに身につけていったものである。最近ではマイカー通勤の影響か帰りに先輩に連れられ赤ちょうちんに行くこともないらしい。座学の研修からは感性の伝授がなかなかできない。
支援センターから在籍校に戻るとき、担任から拒否されたり、いじわるされたりする生徒が時々いる。やさしそうに「無理して来なくていいんだよ、あっちの方が楽しいじゃないの」とか、遅刻や忘れ物をしたら異常に叱られる。「遅刻したって先生はかまわないんだけどね、また仲間はずれにされちゃうよ」などと言われる。
何か理由のようなものがあれば、「いじめがあっても仕方ないよね」と言う。「お前がうちの班に入ると平均点が下がるからいやだ」などと言うのも、教師が連帯責任などといった方法で子供を強迫するからではないだろうか。
いま教師にも、教師を育てる側にも何か欠けているものがないか。宿直制度がなくなり警備も民間業者まかせで、教師と地域の関わりが弱くなっているのかもしれない。学校の周りの卒業生や将来入学する子供を持つ親などと学校応援団を作っていくことなども有効であろう。
合宿研修で一緒に料理をして食べると何となく仲良くなる。一番大事なことは無意識に心が動くことである。一緒に作った仲間とは強い絆ができる。
ドラム缶風呂なども楽しい。が、いまの若い子は手の感覚で湯加減をみられず、温度計を使いたがる。以前、研修に来ていた大学院生が、ドラム缶風呂を薪で沸かすのを自分でやりたいと言うので全部任せてみた。この時、院生は通常の3〜5倍くらいの薪を使い、一体どうなるか見ていたが、とても熱くて入れるわけがない。すると、熱い湯をバケツですくい外に捨て、最初から水を入れ直してまた沸かし始めたのであった。この人はいま大学の臨床心理学の先生になっている。
まだまだ発達途上の子供に教えるときには、配慮や加減ができなければとてもできるものではない。愛媛の体罰問題では、頬をつねられトイレに連れ込まれ、20分間で数十発殴られたという。この子の人生にどんな影響を与えるか予想できないのだろうか。できるだけ早く生徒が元気に学校に戻ってこられることを祈っている。
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【プロフィル】金澤純三(かなざわ・じゅんぞう) 生徒指導、教員研修に詳しい。阪神タイガースのファン。趣味は温泉、料理、トイレ掃除。