<仙台いじめ自殺>首長と教委 権限曖昧

<仙台いじめ自殺>首長と教委 権限曖昧
河北新報 2016年3月31日(木)11時40分配信

◎検証 新教委制度(中)責任

<処分いまだ出ず>

 「教育行政の最終的な責任は、首長が持つべきだと考えてきた」

 2014年4月、地方教育行政法改正をめぐり、衆院文部科学委員会が仙台市で開いた地方公聴会。奥山恵美子市長は意見陳述で、従来の教委制度は責任の所在が不明瞭と指摘した。

 改正法に基づく新教委制度は、教育委員長と教育長を一本化した新「教育長」を首長が直接任命・罷免する形に改めた。首長の任命責任が明確化する新制度に奥山氏は賛同した。

 だが、仙台市泉区の館中1年の男子生徒がいじめを苦に自殺した問題では責任の所在が見えないままだ。市教委が学校の対応の不十分さを認め、教育長が遺族に謝罪。奥山市長は昨年8月の記者会見で「教委が処分に当たる判断をしていく」との見通しを示したが、半年以上を経た今も結論は出ていない。

 新教委制度では、首長と教委が教育政策を議論する総合教育会議の設置や、政策の指針となる大綱の策定を義務付けた。仙台市では自殺問題を踏まえ、いじめ対策を大綱でどう位置付けるかが新制度の試金石だったが、出だしでつまずいた。

 自殺の公表から2カ月後の昨年10月にあった市議会市民教育委員会。市が示した大綱最終案に議員から批判が噴出した。「このタイミングで策定する大綱なのに、いじめ対策の表記が薄すぎる」「総合教育会議で無駄な時間を費やしてきたのではないか」

 市は同8月の総合教育会議でいじめ自殺問題を議論したものの、最終案に男子生徒の自殺は言及されなかった。いじめ対策もその他の教育課題と同列扱い。市側の認識を問う声が相次いだ。

<独立性に配慮か>

 奥山氏は市長就任前の05年から2年間、市教育長を務めた。教委の立場を理解しているせいか、教委の独立性に配慮する姿勢が目立つ。今月22日の記者会見でも「両者が協議しながらの姿勢を良さとして持つべきだ」と伝統的な教委と首長との関係を重視する。

 奥山氏の後任として教育長を3年間務めた荒井崇東北大公共政策大学院教授は「奥山氏は教育と首長の関係をよく知っている。首長は民意を無視できないが、教育行政は子どもに何が最良かが絶対基準。その点を自覚し関与をわきまえたのではないか」と推し量る。

 教育行政をめぐる首長と教委の責任、権限は曖昧さをはらむ。館中の問題はそれを鮮明に浮かび上がらせている。

 自殺した男子生徒の遺族は昨年12月、市と加害生徒らに損害賠償を求める調停を申し立てた。奥山氏は2月の記者会見で「われわれとしても真剣に(申し立てに)対応する」と述べた。

 教委との連帯姿勢が際立つ「われわれ」の表現。かつて口にした「最終的な責任は首長」の歯切れ良さはない。

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