性暴力の実相・第4部(6)子ども守る意識高めて

性暴力の実相・第4部(6)子ども守る意識高めて
西日本新聞 2016年07月24日 03時05分

 「ままごと、お医者さんごっこの延長みたいに楽しいひとときを過ごしたかった。私にとって、『汚れない天使との遊び』でした」

 妻が経営する福岡県内の保育所で、1〜6歳の女児14人にわいせつ行為を繰り返した男(67)。薄くなった白髪頭に眼鏡を掛けた男は、収監中の拘置所から記者に出した手紙で、こんな弁解を繰り返した。

 手紙には「犯罪行為はしていないつもり」という一文もあった。この男にとっては見知らぬ女性を襲って乱暴することが性犯罪だといい「私は嫌がる子と無理に遊んだ事は一度もない」と何度も強調していた。

 小中学生に性的関心を抱くようになったのは、40歳の頃。その後、自らの建築関係の事業がうまくいかず、精神的にくたびれて「残ったのはいっこうに弱まらなかった性欲、少女願望でした」。犯行期間は6年以上。男は今年3月、懲役11年の実刑判決を受け、確定した。

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 「第2次性徴が始まる小学校高学年以上の子どもだけが性被害に遭うというのは間違い」。子どもへの暴力防止プログラムに取り組むNPO法人「にじいろCAP」(佐賀県鳥栖市)の重永侑紀代表=写真=は言う。

 保育園や小学校低学年でも性被害に遭うという社会的認識が広がっておらず、「加害者が教育現場に入り込んだ時、子どもを守る仕組みがない」という。

 重永さんたちは佐賀市や福岡市中央区、福岡県大野城市など行政から委託を受け、保育園や学校などで年間450回以上の予防教育の研修を行っている。そして、こう訴える。

 「みんなには安心して、自由に生きる『権利』がある。権利を奪われるような怖いことをされたら、口止めされても誰かにしゃべっていいんだよ」

 ある研修の後、小学校高学年の女児が「サッカークラブのコーチからお尻を触られてる」と打ち明けてきた。小学4年の男児が担任の女性教諭からわいせつ行為をされていると訴えてきたこともある。

 「先生や保護者への予防教育も大切。大人の意識を変えないと、子どもが被害を話してくれた時、隠蔽(いんぺい)や二次被害は防げない」と重永さんは力を込める。

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 子どもたちが被害を訴えやすいようにと、千葉県教育委員会は2004年度から、高校生を対象にセクハラのアンケートを実施。対象を順次拡大し、13年度からは小中高の児童生徒約47万人などに行っており、結果は教職員の指導や研修に生かしている。

 これまでに、生徒からの訴えがきっかけになって教職員を懲戒処分にした事例は2件しかなく、把握できなかったスクールセクハラもある。それでも担当者は意義を強調する。「毎年1回、継続的に行うことで教職員や生徒の意識も高まり、抑止につながる」

 教える者と教わる者−。力関係や信頼関係を背景に、教育現場で性暴力は続いてきた。いじめや体罰と同じように、社会が目を凝らさなければ、子どもたちは救われない。

 千葉県教委の実態調査 千葉県教育委員会が昨年度、千葉市を除く公立小中高、特別支援学校の児童・生徒約47万人を対象に行ったアンケートでは、教師からセクハラを受けたと回答したのは計422人。このうち「必要以上に体に触られた」は小学生16人、中学生22人、高校生59人、特別支援学校生2人だった。学校ごとに調査を行い、生徒は任意で名前を書く方式をとっている。無記名であっても、県教委は学校長に対応を求める。神奈川県教委も高校生など約13万人を対象に、同様の調査を行っている。

 =おわり

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=2016/07/24付 西日本新聞朝刊=

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