150万円巻き上げられ 原発避難生徒にいじめ
カナロコ by 神奈川新聞 2016/11/16(水) 6:30配信
東京電力福島第1原発事故で横浜市に自主避難した男子生徒(13)がいじめを受けていた問題で、生徒の代理人が15日、市役所で会見を開き、いじめの内容や生徒の手記を公表した。転校直後から同級生らに悪口を言われたり、蹴られたりするなどのいじめが深刻化。遊興費など計150万円を負担させられ、生徒は「なんかいも死のうとおもった」と心情を吐露した。代理人はいじめの内容を非公表とした市教育委員会側の姿勢や対応の遅さを批判している。
今回公表した手記は、生徒が昨年7月、ノート3枚に手書きで思いをつづったもの。
「ばいしょう金あるだろと言われむかつくし、ていこうできなかったのもくやしい」「ばいきんあつかいされて、ほうしゃのうだとおもっていつもつらかった。福島の人はいじめられるとおもった。なにもていこうできなかった」「いままでなんかいも死のうとおもった。でも、しんさいでいっぱい死んだからつらいけどぼくはいきるときめた」
代理人によると、生徒は小学2年生だった2011年夏、市立小に転校。直後から名前に菌をつけて呼ばれたり、執拗(しつよう)に追い回されるなどのいじめを受けた後、3年生で約4カ月間不登校になった。再登校後も鉛筆を折られるなどのいじめは続いた。
5年生になると、「(原発事故の)賠償金をもらっているだろう」などと言われ、みなとみらい21地区のゲームセンターなどで10人程度の遊興費や食事代など1回当たり5万〜10万円、計150万円を負担。児童2人のエアガンを購入したこともあった。生徒は再び不登校となり、今年3月の卒業まで一度も登校しなかった。
生徒が金銭を負担したことが市教委の第三者委員会でいじめと認定されなかった点について、代理人は「いじめの環境から逃れるために応じざるを得なかった」と主張。その上で「調査開始が遅れ、加害側の聞き取りができないなど踏み込めなかった」との見方を示し、その前提に市教委の対応の遅さを挙げた。
150万円については「生徒の両親が生活資金として自宅に保管していたもので賠償金ではない。そもそも自主避難なので賠償金は極めて低額だ」と説明した。
被害生徒は手記を公表した理由について「(いじめ被害に苦しむ)他の多くの子どもたちに、少しでも励みになればと思った」と打ち明けたという。生徒の両親も声明を出し、「学校・教育委員会の対応がままならず、精神的に追い込まれた。時間を返してほしい」と訴えた。
■報告書非公表「隠蔽か」反発
報告書の公表を求める被害生徒側と、否定的な横浜市教育委員会。法解釈を巡っても、意見の相違が鮮明になった。
2013年施行のいじめ防止対策推進法は、生命、心身、財産に重大な被害が生じた疑いや、一定期間にわたって欠席を余儀なくされた疑いがあるときに、重大事態として学校側に対処することを求めている。
被害生徒側の代理人は、不登校が30日を超え、大金の授受が発覚した段階で、学校は重大事態として市教委に報告すべきだったとし、市教委は遅くとも14年6月には第三者委員会を開くべきだったと指摘。放置したのは同法違反に当たり、被害生徒の学習権を1年7カ月も奪ったなどと厳しく批判した。
市教委としては、重大事態として立ち上げた初めての第三者委だった。岡田優子教育長は、「14年6月の時点で重大事態と認識すべきだった」と認めたものの、原因が複雑だったなどとして「法律違反だったかどうかはコメントできない」とした。
また代理人は、被害生徒や保護者が学校への不信感を募らせた原因として、教諭らの対応を挙げた。小3時の不登校や小5時の金銭授受はいじめと無関係と判断し、小4時には「教科書がなくなる」との訴えに対して、副校長らが「本人の管理が悪い」など話したという。被害生徒は手記で「いままでいろんなはなしをしてきたけど(学校は)しんようしてくれなかった」「なんかいもせんせいに言(お)うとするとむしされてた」と吐露した。
代理人らによると、保護者は事実の公表を市教委に求めているほか、市教委がいじめの背景や具体的内容を非公表としたことについて「隠蔽(いんぺい)ではないか」などと抗議した。これに対し、岡田教育長は「子どもの成長に配慮する必要があるため、今後もいじめの具体的内容については一切公表しない」との考えを示し、謝罪についても未定とした。