ツタヤ図書館、強引にCCCへ委託先決めた市教委委員長が新館長就任か…再び天下り人事疑惑
Business Journal 2016/11/17(木) 6:02配信
岡山県高梁市は11月1日、レンタル大手TSUTAYAを運営するカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)を指定管理者とし、管理・運営を任せた図書館を、来年2月4日にオープンすると正式発表した。
駅前に完成した4階建ての複合ビルに、賑わい創出の目玉としてCCCがプロデュースするカフェや書店を併設する滞在型の新図書館がオープンする計画で、佐賀県武雄市、神奈川県海老名市、宮城県多賀城市に続いて、全国で4例目となる“ツタヤ図書館”だけに、かねてより注目を集めていたのだが、驚いたのがその人事である。
新聞報道等で、新図書館の館長として名前が挙がったのは、高梁市教育委員会の委員長だった藤井勇氏だ。教育委員としての任期は、2013年11月16日〜17年11月15日までとなっていたが、任期を1年以上残して今年9月30日付で退任していた。
さらに取材してみると、10年3月に同市内の小学校校長を定年退職した後は長年、地元教育界で活躍されていて、「10月1日からCCC社員として入社したと聞いています」(市議会関係者)とのこと。
ある図書館関係者は、これは信じられない人事だと指摘する。
「新図書館の指定管理者を決めたのは、市教委です。その部署の委員長が、指定管理者となった会社に就職するなんて、そんなあからさまな天下りが許されるのでしょうか」
教育委員会組織は、委員会の下に事務局があり、その下に図書館がある。その図書館の運営を担う民間会社に、市教委では「教育長に次ぐナンバー2」といわれる委員長が就任するわけで、まさに「天下り」といえる。教育委員は特別職なので、地方公務員法の規制は受けない。したがって違法行為ではないが、仕事を依頼する側の責任者が、依頼を受けた側の責任者に就任するということは、道義的な問題が生じる恐れはある。
この点について高梁市社会教育課の担当者は、「教育委員会としては退職者の再就職にはとやかくいう立場にはない」と説明する。
また、ある市議会関係者も、この人事について肯定的に話す。
「高梁市の場合、指定管理者を公募していないんです。基本合意を交わしてから、そのままきていますから、(市教委は)事業者選定にもかかわっていません。すでに教育委員を退任されているようですから、私は特に問題だとは思いません」
●CCCは無回答
だが、他の自治体の図書館関係者は、この見解に疑いの目を向ける。
「CCCを指定管理者として承認したのは市議会でも、そこまでの道筋をつくったのは市教委と考えられます。たとえ市長がCCCに決めたいと考えていても、市教委がノーと言えば話は進まないはずです。そういう決定権のある部署のトップが、指定管理者となった企業に再就職するのは、市民の誤解を招きかねない行為です」
しかも、議会でCCCの指定管理者が反対意見もなくスムーズに決まったのかというと、決してそうではなかった。高梁市議会関係者がこう明かす。
「3月の議会で図書館の指定管理者をCCCに決定するとき、ある議員から、『図書館専門会社のTRC(図書館流通センター)から、同じ条件・サービスでCCCよりも5年間で1億2500万円も安くできるという提案もあるので、あらためて公募するべき』という意見が出されました。それに対して『調査したが、CCCは高くなかった』と強引に進めたのが市教委です。その市教委の人間がCCCに入るなんて、おかしすぎます」
実は、これと似た出来事が3月21日に、全国3例目のツタヤ図書館として新装開館した宮城県多賀城市立図書館でも起きていた。
当サイト2月6日付記事『ツタヤ図書館、市側の元図書館協議会会長がCCC天下り疑惑…新館長に就任』で報じたが、元小学校の校長で、市教委傘下の図書館協議会会長を務めていた人物が、指定管理者に選定されたCCCに入社して、オープンと同時に館長に就任したことが明らかになった。
その後、市長が直接口ききしたのではないかと市議会でも追及され、大問題に発展したが、高梁市のツタヤ図書館でもまったく同じことを行っているのだ。
多賀城市のケースでは、事業者選定に直接の決定権はないが議論をリードしていく役割を担った図書館協議会会長(図書館長の諮問機関)がCCCに再就職した。しかし、今回の高梁市のケースは、直接決定に関与する教育委員会の委員長だ。
高梁市教委に取材したところ、本件に関して、藤井氏が9月末まで教育委員だった事実だけは認めたものの、「それ以上は個人情報なので一切答えられない」として取材を一方的に打ち切った。
CCC広報にもコメントを求めたが、期日までに返答はなかった。
ツタヤ図書館は、先行する3例すべてで不祥事が多発しているが、そのたびに市当局が「問題ない」とCCCを擁護する姿勢に終始している。高梁市の、ある市議会関係者は次のように危惧する。
「6月の教育委員会で、図書館の設備関係の予算が、当初の見積もりよりも、なぜか2000〜3000万円高くなったことがありました。そのとき、教育委員会のメンバーは全員一致で、CCCに対して議会に詳細な明細を提出することを求め、条件付きで予算を承認しました。しかし今後、藤井氏が館長に就任したら、CCCの提案を丸のみするようになってしまうかもしれません」
●新館長就任予定の藤井勇氏を直撃
今回の人事について、館長就任予定の藤井氏本人はどのようにとらえているのだろうか。またどのような経緯で、教育委員が館長就任となったのだろうか。そこで、藤井氏本人に直撃取材を行った。
–館長ご就任について、お話をお聞かせください。
藤井勇氏(以下、藤井) CCC広報を通して質問していただければ、広報を通じてお答えさせていだきます。
–CCC広報には、今回の件について別にコメントをお願いしています。直接、ご本人にお聞きしたいのは、世間では今回の人事を「天下り」ととらえる方もいらっしゃることです。その点について、ぜひご本人の口から、ご説明いただきたいのです。
藤井 私が選んだわけではないので。そういったこともすべて広報がお答えします。
–広報経由では、ご真意が伝わらないのではないでしょうか。
藤井 私も雇われた身でございます。「広報を通じてお答えすると回答してください」と言われているのです。
–教育委員会は、指定管理者を決めた立場です。その決めた側の人が指定管理者に就職するというのはいかがなものでしょうか。
藤井 それは違います。どういった経緯で決められたのかはCCCにしかわからないと思います。広報を通してくださいと、とにかくきつく言われたので、お答えできないんです。
–今回のことで、いろんな方に話をお聞きしました。やはり疑問が湧きます。CCC運営の他市の図書館のこともご存じだと思います。多賀城市でも、図書館協議会の会長をなさっていた方が館長に就任されました。
藤井私はそういう(図書館協議会会長)のはしておりません。
–教育委員の方がつかれるのは、いくらなんでもマズイだろうという声がありますが、どのようにお考えですか。
藤井 お答えすることができないので、申し訳ありません。
–藤井先生は司書資格をお持ちですか。
藤井 社会教育主事の資格は持っているのですが、司書の資格は持っていません。
–司書教諭も?
藤井 はい。
–図書館で働かれたご経験もありませんか。
藤井 県立図書館などを利用させていただいておりましたが、仕事はしていないです。
–元は校長を務めていらっしゃいましたね。
藤井 2010年3月まで、川上小学校というところです。
–定年退職された後、13年11月に教育委員会に入られるまでは何をされていましたか。
藤井 高梁市の適応教育の指導員をしていました。学校になかなか行けない子供たち、不適応の人たちのための指導です。
–その後、13年から教員委員会に入られたわけですね。
藤井はい。
–わかりました。ありがとうございました。
(文=日向咲嗣/ジャーナリスト)