大分県教委汚職10年、「口利き」の実態は解明されず 訴訟関係者「事件終わってない」
西日本新聞 2018/6/14(木) 10:30配信
大分県の教員採用試験を巡る汚職事件は14日、発覚から10年を迎える。大学の教授らが「口利き」をし、県教育委員会幹部が試験で加点した事件を受け、県教委は組織や試験手法を変えて、再発防止と透明性確保に努めてきた。ただ、事件の核心ともいえる「口利き」の実態は解明されておらず、3件の民事訴訟は今も審理中。訴訟関係者は「事件はまだ終わっていない」と強調する。
事件は2008年、県教委幹部や小学校長ら8人が賄賂を授受したとして逮捕、起訴された。08年度試験で採用された21人が「不正合格」となり、自主退職や採用取り消しとなった。
県教委は、それまで複数の課にあった人事部門を新設の「教育人事課」に一元化。試験では、採点を県人事委員会に移管し、県教委は合格ラインの決定のみ担当するようにした。受験者の氏名や受験番号を隠して採点するなど「他県より厳しい仕組みを構築した」と県教委幹部は説明する。
背景に「色濃い仲間意識、身内意識」
県教委は内部調査で、01年度以前から口利きが続いており、背景に「色濃い仲間意識、身内意識」があったと認定した。県は口利きに対する取り扱い要綱を策定し、「不当な働きかけを受けた場合は撤回を促す」などと規定。採用への口利きは、事件後1件もないという。
12日に開かれた県教育委員会で、工藤利明教育長は「真摯(しんし)な反省のもとに教育行政を改革してきた」と述べた。
具体的に誰が関わったのかは特定されず
「10年たった今も、全容は解明されていない」。NPO法人・おおいた市民オンブズマンの永井敬三理事長は憤る。県教委の内部調査や一連の公判では、摘発された8人以外にも口利きや不正への関与があったと指摘されたが、具体的に誰が関わったのかは特定されていないからだ。
県は、06、07年度の採用試験で、点数改ざんのあおりを受けて不合格となった53人に計9千万円の賠償金を支払い、このうち948万円を有罪が確定した県教委元幹部ら7人に請求した。「不正に関与した全員に請求されるべきで、裁判の中で関与者を明らかにしたい」と考えた永井理事長は13年、関係者に損害賠償を求める「求償権」の行使を県が怠ったとして、県の違法性確認を求める住民訴訟を起こした。
15年3月の大分地裁判決では一部勝訴したが、同年10月の福岡高裁判決は県の主張を認め、全面敗訴。昨年9月に最高裁が高裁判決を破棄し、審理を差し戻したが、関与者の特定などはないまま、差し戻し審は結審し、9月28日に判決が言い渡される。
採用取り消しの2人、最高裁で係争中
事件を巡っては、採用取り消し処分を受けた男性2人が処分撤回を求めて提訴しており、いずれも最高裁で係争中。そのうちの1人、秦聖一郎さん(32)は「県教委は『不正合格』とした21人に責任を押しつけ、口利きした側の責任は棚上げされた」と指摘する。
永井理事長は、今年4月に大分市内の中学校教諭が生徒を失神させたことを、市教委幹部が会見で隠していた問題を挙げ「教育行政には仲間意識は根深く残っている。全容解明されないままの信頼回復などあり得ない」と訴えている。
=2018/06/14付 西日本新聞朝刊=