<熊本・長洲>裁判絡む議事録削除 議長「町民に知らせず」
毎日新聞 2018/11/6(火) 6:30配信
熊本県長洲町立中で2012年、授業中に女子生徒が男子生徒から暴力を受け精神障害を負った問題を巡り、町議会での議員の質問や町教委側の答弁が、議長判断で閲覧用の議事録から複数箇所削除されていたことが判明した。女子生徒側は町などを相手に訴訟を起こしており、議長は「裁判に関係しているので削除した」と説明。女子生徒側は「議会での議論を『なかったこと』にするのはおかしい」と批判する。
女子生徒は1年生だった12年2月、授業中に男子生徒から頭をたたかれたり足を踏まれたりして打撲などを負い、うつ状態や解離性障害になって現在も治療を続けている。担任は同級生に男子生徒からの暴力の有無を問うアンケートを実施したが、その後、回答用紙を廃棄。女子生徒側は町と男子生徒の両親に損害賠償を求める訴訟を起こすとともに、町にアンケート廃棄の責任を問う訴訟も起こしている。
削除されたのは、浜崎久議員が今年6月19日の町議会本会議で行った一般質問。浜崎議員によると、被害時の校長や教諭が1〜2月にあった訴訟の証人尋問で証言した内容を基に質問した。
削除された質問の一つは「校長から調査(アンケート)を指示された教員は、校長に調査資料を提示して報告することになっているのか」といった内容で、アンケート廃棄の経緯を確かめる狙いだった。
さらに「被害発生までに教師間で男子生徒の情報をどう共有していたかについて、校長と教師の証言が食い違っている」などと指摘し、町教委の認識をただした質問も削除され、議事録には<1025字削除>とだけ記された。質問への教育長らの答弁も削除された。
削除された質問については、徳永範昭議長が閉会前に「裁判の過程を例に挙げて発言したことは不適切」と判断して取り消しを命じ、浜崎議員が「一任する」と答えていた。徳永議長は取材に「裁判のことはできるだけ町民に知らせない方がいいと考えた」と答えた。浜崎議員は「『一任する』と言ってしまったが間違いだった。裁判は公開されており、削除すべきではなかった」と話した。
暴力問題関連で削除されたのは、質問と答弁で少なくとも計8カ所(計6397字)に上った。町は議事録をホームページで公開しているが、削除部分については、どんなやり取りがあったのか確認できない。
女子生徒の母親(46)は「学校の管理態勢を検証し、再発防止のために議論するのが議会の役割ではないのか。議会が町と一体となって問題を隠しているとしか考えられない」と憤る。【樋口岳大】
◇「真実ゆがむ恐れ」
田中孝男・九州大大学院法学研究院教授(行政法)の話 議事録作成の目的は、開かれた場で議論された内容を有権者に正確に知らせることだ。個人のプライバシーを傷つけるなど明らかな問題がない限り、発言を削除すべきではない。削除することで、真実がゆがんでしまう恐れがある。