「2年前の受験料を返して」 東京医科大から届いた入学意向確認の通知に現役医学部生が反発〈dot.〉
AERA dot. 2018/11/27(火) 7:00配信
まさに「今さら」な通知が届いた。
「2年ほど前に受験した結果が今さら来ても……と思って、ちょっと笑っちゃいました。入学意向確認書が届いて、『不正がなければ合格していたのかもしれない』とうれしい気持ちもあったけど、正直、受験料を返してほしい気分ですね。日医に進学できて満足しているので、東医には行きません」
力強い口調でこう話すのは、2017年に東京医科大学の一般入試を受験して不合格で、日本医科大学に進学した男子学生だ。帰国子女で、高校生のときに海外から帰国したものの、難関の医学部入試の受験勉強が間に合わず、2017年の受験時には3浪。浪人年数が多い、いわゆる「多浪生」だった。
3年間の浪人で着実に学力をつけ、受験した私大医学部13校のうち10校で1次試験合格。2次試験を受験した7校のうち、日本医科大学、国際医療福祉大学、杏林大学、日本大学に合格した。これだけの大学に合格したのに、1次試験の手応えがよかった東京医科大学は、2次試験で不合格だった。
「多浪は厳しい、というのは知っていました。ただ、他の大学の合格状況からみて、受かっていてもおかしくないのに……と、当時思いましたね」
■「記憶」に残る面接官
まもなく2年が経とうとしている。なのに、東医大の2次試験のことは今でもはっきりと覚えている。とりわけ脳裏に焼き付いているのは、面接官が居眠りをしていたことだ。
「面接官は2人でしたが、そのうちの1人がずっと寝ていたんです。約10分間、もう一人の面接官とだけ話しました。一方、国際医療福祉大学の2次は、英語での面接を希望しましたが、最初の30分間は3人の面接官、次の30分間は5人の面接官が丁寧に面接してくれました。両大学の面接のギャップが記憶に残っています」
11月7日、東京医科大学は、女子と多浪生を不利に扱った2017年と2018年の入試で、繰り上げ合格となった最低順位よりも上位だったにもかかわらず不合格になった受験生が101人(男性34人、女性67人)いることを発表した。ただ、希望すれば全員が入学できるわけではない。通常、合格者を決定するときには、募集人員に達するまで成績順に繰り上げ合格を実施しているからだ。
東医大が、両年の入学生において得点操作を排除したうえで「再判定」した結果、両年合わせて最大63人が入学を認められる。なお、一般入試、センター利用入試、推薦入試の区分ごとに、入学できる人数が決まっている。
表を見てほしい。たとえば2017年の一般入試で、合格ラインを超えていたのに不合格になったのは26人だが、追加入学を認めるのは最大14人だ。
「東医に合格する力があれば、他の医学部にも合格していると思います。たとえ17年は浪人しても、18年には合格した受験生が多いと思うから、17年度の受験生で来春東医に進学する人は少ないのではないでしょうか」(前述の日本医科大学生)
■入学を「希望」しても…
東京医科大学は101人の意向確認対象者に、11月8日の日付、学長名の「平成29年度及び平成30年度医学科入学試験における合否再判定に伴う入学意向の確認について(重要なお知らせ)」と「入学意向確認書」を簡易書留で送り、16日に同大で説明会を開催した。
医系専門予備校メディカルラボ本部教務統括の可児良友さんによると、18年の東京医科大学の一般入試を現役で受験したものの不合格、現在首都圏の医学部に通う女子学生が、説明会に参加したという。可児さんが話す。
「7日の記者会見の翌日には、『また1年生からやりたくないので、連絡が来ても行かない』と言っていましたが、実際に通知を手にすると迷い始め、説明会に参加しました。両親と参加した人も多かったそうです」
東京医科大によると、参加人数は対象者と保護者を合わせた約80人。この女子学生が受験した18年の一般入試の対象者は51人だが、追加合格を認めるのは約半数の26人だけだ。
対象者は、11月30日必着で「入学意向確認書」を提出する。同書に書かれているように、(入学を)「希望する」に〇をしても、成績上位者で募集人員に達した場合には不合格となる。
複雑なので整理すると、東医大は101人に「入学意向確認書」を送付したが、実際に入学できるのは最大で63人まで。つまり、一度不正な入試によって不合格になったものの一連の流れで「入学意向確認書」が届き、あらためて今回入学を希望したが、またもや不合格に――そんな受験生が出る可能性もあるのだ。あまりに気の毒だとしかいいようがない。
「説明会に参加した女子生徒によると、希望しても不合格になる場合があること、追加合格した受験生がその後辞退した場合、次の順位の人に回るのではなく31年度入試の募集枠に回されること、補償に関する説明がなかったことに対しての不満の声が多かったようです。女子生徒自身も、今回の説明会にいい印象を持てないうえ、希望しても通らない可能性があるため、入学希望を出すかどうかで悩んでいます」(メディカルラボ・可児さん)
この説明会のときには、自分の順位がわからず、入学希望を出しても不合格になる可能性があった。このことに対する不満の声も多かったためか、その後、対象者には順位が記載された通知が再度届いた。前述の日本医科大生の順位は5位以内だったという。
医学部専門予備校YMSの小柴允利講師長によると、昨年の秋に東医の推薦入試を現役で受けた女子生徒にも通知が届いた。18年度の推薦入試の対象者は9人で、追加入学を認める上限の人数も9人。同年度の一般入試では全員が入学を希望した場合、対象者の約半数しか合格しないが、推薦入試では「希望する」に○をすれば、合格できる状況だ。
ところが、その女子生徒は進学を希望しないという。
「東医が第一志望でしたが、現在は都内の医学部に進学しています。通知が届いたあとに本校に来ましたが、『一年次の課程を再度やり直すことは留年したことに等しいため、東医への入学を希望しない』と話していました」(小柴さん)
■通っている大学をやめて東医大へ?
現在、浪人中の受験生が東医大に進学する場合には他大学に影響はないが、現在他大学に通う学生が東医大に進学するとなると、その大学は学生が減るという問題が生じる。
また、来年の東京医科大学の入試の募集人員は、定員から追加合格者の人数を引いた数となる。来年の受験を考えている受験生にとっては、募集人員が何人になるかは大いに気になるところだ。多くの塾・予備校では、募集人員が決まってから出願を検討するよう指導しているという。
取材した多くの予備校や塾の関係者によれば、「通知をもらっても、実際に入学する例はそれほど多くないだろう」と予測する。東医大は受験生に人気がある伝統校なので、「東医に合格する力がある受験生なら、他の医学部に合格して進学しているだろう」というのがその理由だ。
実際に、メディカルラボ、YMS、ビッグバン、ウインダムなどの医学部専門予備校の卒業生で、東医から「入学意向確認書」が届いた人たちは、国立の浜松医科大学、私立の日本医科大学、昭和大学、杏林大学、東京女子医科大学、聖マリアンナ医科大学などの医学部に進学しており、東京医科大学に入学する意思はないそうだ。
なかには、前述の女子学生のように、現在通っている大学をやめて東医に進学するか迷っている人もいる。一方、現在浪人中だが、「浪人して一生懸命に勉強してきたので、東医よりも学費が安い難関大に合格して、見返してやりたい」と語る生徒もいるという。
あと2カ月で本格的な受験シーズンに突入する。一刻も早い大学側の正確な情報公開と受験生への対応が望まれる。(文/庄村敦子)