わいせつ事件起きても休園しないで 保護者「継続性」訴える背景

わいせつ事件起きても休園しないで 保護者「継続性」訴える背景
産経新聞 2019/6/7(金) 10:00配信

 大阪府八尾市の認定こども園で昨年、保育士による園児への強制わいせつ事件が起きた。その影響で他の保育士が一斉退職し、園は今年度から休園に。在園児は転園を余儀なくされたのだが、このうち一部の保護者が園を運営する社会福祉法人などに対し、慰謝料を求める訴訟を起こした。「なぜ子供たちが放り出されるのか」。信じがたい事件が起きた“現場”だが、慣れ親しんだ子供たちにとっては唯一無二の場所。転園を強いられた子供たちに何が起きたのか。(矢田幸己)

 「先生にチューされた」「(下半身を)こちょこちょされた」。訴状などによると、疑惑が露見し始めたのは平成30年2月ごろ。複数の園児が、保育士だった男(31)から受けたわいせつ行為を保護者に打ち明けた。

 男は園長と副園長の息子。保護者らは園長らを交えた話し合いの場を持ったが、男はキス以外の行為を認めなかった。

 しかし同年6月、事態は急展開する。大阪府警が裸の園児にわいせつ行為をしたとする容疑で男を逮捕したのだ。

 事件後に開かれた緊急の保護者説明会。女性保育士は涙ながらに打ち明けたという。「(園幹部の息子である)男の行為を見て見ぬふりしていた」

 これを機に、保育士の退職希望が殺到。しばらくして、新年度以降の休園方針が保護者に伝えられた。

 ただ、慣れ親しんだ同園へ引き続き通えるよう求める声は少なくなかった。保護者らは同年12月、休園回避へ民事調停を申し立て、経営陣の刷新などを運営法人に求めたが応じず、今年5月、慰謝料など計550万円を求めて提訴に踏み切った。

 休園後、園児ら約160人は市内の別の園へ通園するようになった。

 「園側の身勝手な理由で、なぜ子供たちが放り出されなければならないのか。理解できない」。原告の保護者の一人は提訴後、大阪市内で開かれた会見で怒りをあらわにした。

 わが子の通園先で事件が起きたにもかかわらず、保護者が同じ園での保育を求めるのには理由がある。

 ある園児は通園時間がこれまでの5分から30分に伸びた。自宅を出る時間を早めたが、園児の生活リズムが崩れ、頻繁に夜泣きするようになった。就寝前には、「(元の)園に行きたい」と漏らすという。

 「(転園先に)行きたくない」「○○ちゃんともっと遊びたかった」とこぼすようになった園児も。精神状態が不安定になったため、通院するようになった園児もいるという。

 環境の変化で崩れたバランス。「保育の継続性」と呼ばれるもので、専門家は幼い子供にとって極めて重要な要素だとする。

 「情緒の安定のため大切なのは、保育の中身より保育環境だ」。保育現場に詳しい鎌倉女子大短期大学部の小泉裕子教授が話す。環境や先生・友人などの人間関係の変化がストレスにつながるのは、大人でも同じだろう。小泉教授は「同じ園で保育を受けさせたいとする保護者の考えは当然」と述べ、「事件があったとしても、園側は保育の継続性を鑑み、必要な対策を講じられたのではないか」と指摘する。

 対して、被告となった園の運営法人。今年4月、法人の理事長と副理事長をそれぞれ務めていた園長夫婦が退任し、経営体制は一新された。しかし保育士の確保が難しく、園の再開を目指しているものの、時期を含めためどは立っていない。保護者が起こした訴訟について新たに就いた理事長は「コメントのしようがない」と話した。

——–

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする