「練習用」なのに「個人情報持ち出し」 「誤解」で処分され留年 高校を提訴へ
毎日新聞 2019/6/16(日) 6:00配信
看護師を目指して私立・大阪暁光高校(大阪府河内長野市)に通っていた女性(20)が、教員の誤解で処分を受けて留年を余儀なくされたとして、学校側に約440万円の損害賠償を求めて月内に大阪地裁堺支部へ提訴する。同級生のツイッター投稿をきっかけに、実習先の患者の個人情報を外に持ち出したと一方的に決めつけられたとしている。女性側は「個人情報の持ち出しはなく、処分は重すぎる」と訴えている。
同校は5年間の課程を修了すると、看護師試験の受験資格を得られる。訴状などによると、女性は2014年4月に入学。4年目の18年2月、10日間の病院実習を受け始めた。
2日目の実習後、女性は同級生2人とファミリーレストランで自習していた。うち1人がその様子を撮影し、無断でツイッターに投稿。写真には、教科書や練習用の看護記録が小さく写っていたが、文字が判別できるような状態ではなかった。
すると3日後、教員が「(練習用ではない)患者の個人情報が含まれる看護記録を外で開いたので、実習には行かせられない」と、3人に自宅待機を命じた。投稿を見た人が学校に連絡したという。
看護記録は練習用に症状などの例を女性が書いていたもので、実際の個人情報は含まれていなかったとしている。自習していた3人とも、練習用だと説明したが聞き入れられず、その後の実習には参加できなかった。進級には実習の単位が必要なため留年し、学校への不信感から間もなく自主退学した。
ツイッターなどのSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)を巡っては、個人情報の流出が問題になる例が相次いでいる。女性の代理人の田中俊弁護士は「なぜ練習用ではなく、本物の看護記録と決めつけることができるのか。個人情報の流出もない。学校側の対応は過剰で、学ぶ権利を侵害している」と指摘する。
高校を運営する学校法人・千代田学園(河内長野市)は毎日新聞の取材に、「持ち出しを禁じていた実際の看護記録を公共の場で広げていたと認識している。訴訟には誠実に対応したい」としている。【戸上文恵】
◇「悪いことをしていないのに……」
「失った時間を返してほしい」。留年を余儀なくされた元生徒の女性は、そう訴えている。
子どもの頃に妹が病気で入院し、笑顔で接してくれた看護師にあこがれた。処分を受けたのは、あと1年ほどで国家試験が受けられるはずだった昨年2月。見ていたのは練習用の資料だと説明しても処分は変わらず、「先生も自分を信じてくれないのか」とショックを受けた。
夢を諦めきれず、別の看護学校を受験したが不合格に。面接で高校をやめた理由を聞かれ、うまく答えられなかった。「前に進もうとしているのに、まだ足を引っ張られる」と肩を落とす。
同級生は今年4月から看護師として働き始めた。女性は「自分も今ごろなれていたかと思うと、とてもつらい」と声を詰まらせる。母親(41)は「悪いことをしていないのに、人生を大きく変えられてしまった」と憤った。【戸上文恵】