高2自殺で山口県教委、「いじめ」教員処分見送り 「指針に該当せず」 遺族「憤慨している」
毎日新聞 2019/7/23(火) 23:00配信
山口県周南市で2016年、県立高2年の男子生徒(当時17歳)が自殺した問題で、県教委は23日、県の第三者委員会が事実上のいじめ行為を認定した教員について、懲戒処分を見送ったと発表した。県教委は認定を「重く受け止める」としていたが、「懲戒処分の指針には該当しなかった」と説明している。当時の校長は減給の処分とした。遺族は不処分の判断に疑問の声を上げている。
いじめ防止対策推進法は教員によるいじめを規定していない。だが、県の第三者委「県いじめ調査検証委員会」は今年2月の最終報告で、同級生らのいじめに加えて、一部教員が授業中に生徒の名前を不必要に連呼したなど五つの言動を「いじめに類する行為」と異例の認定をしていた。
県教委は、報告書を踏まえて当時の教員から聞き取り調査。5項目について教員2人が該当する言動をしていたと確認したが、県教委の懲戒処分指針で規定する交通事故や飲酒運転、体罰などに当たらないと判断したという。
一方、当時の男性校長(60)はいじめに関するアンケートをしていなかった時期があったなどとして23日付で減給10分の1(1カ月)の懲戒処分にした。当時の教頭2人を文書訓告とし、野球部顧問は生徒の入部時に保護者の意向確認をしなかったなどとして口頭厳重注意とした。
「いじめに類する行為」を認定された教員の不処分に、亡くなった生徒の両親は「率直に言って、憤慨しています」などとコメントを出した。「処分を通じて教員たちが事実に向き合い、責任感を強めてもらえるものと期待していた」とし、教員らの反省や再発防止の取り組みについて改めて遺族に説明するよう求めている。
男子生徒は16年7月、周南市の駅構内で貨物列車にはねられ死亡した。検証委は、生徒が所属していたテニス部員からのいじめや、自殺する1週間前の野球部へのなし崩し的な入部で板挟み状態となり、絶望感が高まって自殺のきっかけになった可能性を指摘していた。【真栄平研】
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両親によると、非公表の文書には複数の教職員が聞き取り調査に「(からかいや揶揄(やゆ)などで)いじられて嬉しいという人もいる」「(男子生徒は)学習障害」「能力が異常に低い」「(いじめに)大きな問題はない」などと発言したと記載されていた。
山口県周南市で2016年、県立高2年の男子生徒が自殺し他の生徒や教職員がいじめていたと認定された問題で、県の検証委員会の聞き取り対象になった教職員が、いじめに該当する可能性のある「いじり」に関し「いじられてうれしい人もいる」「注意しづらい」と答えていたことが22日、概要をまとめた非公表の文書で分かった。
この問題を初めに調査した県教育委員会の調査委員会は「いじめのみを自殺の要因と考えることはできない」と判断しました。これに対して県の再調査委員会は「いじめなどの学校生活が自殺に大きく影響した」と結論付け、教職員による「いじめに類する行為」も認めました。
検証委は、同級生らの「いじめ」に加え、一部教員による生徒へのからかいなどについても「いじめに類する行為」と認定した。父親は「教員からもいじめを受けて本当につらかっただろう」と話した。
県教委の第三者委が昨秋まとめた最終報告書には、生徒の性格に自殺の原因の一端があるかのような指摘があり、がくぜんとした。その一方で、再三求めた野球部の練習の実態など事実調査は不十分のまま。母親は「性格、人格に問題があるから人は死に追いやられるのか。遺影の中でほほ笑む息子に対し、余りにもむごい仕打ちです」と唇をかむ。「息子が弱かっただけ」などと言われるのは耐え難かった。親は何を言われても良いと、再調査を求めた。
遺族側は県とのしがらみがない委員らによる調査を求めてきたが、県は常設の第三者委で週内にも調査を始める意向だ。いじめが起きた時のために第三者委を常設する自治体は多いが、被害者側が不信感を抱くケースは珍しくなく、専門家は対応の必要性を指摘する。
報告書はこれら複数のストレス要因を指摘した上で「いじめのみを自殺の要因と考えることはできない」と結論づけ、自殺の原因を特定しなかった。また、生徒の訴えなどを見過ごした教諭や学校の責任についても言及しなかった。
遺族は説明に訪れた第三者委の委員に対し「自死は教諭の配慮不足といじめが原因と考えている。報告書に記載してほしい」と求めたが、委員は「それはできない」とした。遺族は生徒の死後、「1日200〜300本バットを振らせた」と語った野球部顧問の指導についても調査するよう要望していたが、委員は「いじめ問題調査委員会だから記載は控えた。別の部署が検討する」と答えたという。
山口県周南市で7月、県立高2年の男子生徒が貨物列車にはねられて死亡した事故があり、同県教育委員会は12日、生徒がいじめを苦に自殺した可能性もあるとして第三者委員会による調査を始めた。
県警によると、生徒は7月26日午前1時10分ごろ、同市久米のJR山陽線櫛ケ浜(くしがはま)駅構内で、上り貨物列車にはねられ死亡した。運転士は、生徒が駅のホームから線路におりたように見えたと話しているという。