留学生所在不明…少子化で収入減の大学、就労目的の学生と思惑一致し…
読売新聞オンライン 2019/7/25(木) 12:10配信
東京福祉大(東京)で多数の留学生が所在不明になった問題では、大学のずさんな在籍管理の実態が明らかになった。背景には、少子化による経営環境の厳しさから留学生集めで収入増を狙う学校側と、日本での就労を目的とする一部留学生との思惑の一致がある。国は、在籍管理の不適切な大学などに留学生受け入れを認めない方針を打ち出すが、学ぶ意欲のある留学生受け入れ拡大に向けた環境整備も必要だ。(教育部 松本将統 岡本裕輔)
「週28時間以上働く」
東京福祉大に通う南アジアからの留学生男性(25)は、「様々な分野で技術力の高い日本で学びたい」と2017年10月に来日。日本語学校を経て今春から同大に入学した。研究生として非正規の課程で日本語や社会福祉を学んでいる。
弁当工場や宅配便の仕分けなど複数のアルバイトを掛け持ちし、法定の週28時間を超える35〜40時間働く。男性は、「違法と分かっているが、来日時の借金もあり、アルバイトを優先しがち」と話す。
専門的な技能などの必要な就労の在留資格より、留学の資格取得は簡単だ。アルバイトは週28時間までに制限されるが、それ以上働く留学生は後を絶たない。所在不明の留学生について同大教員は「多くは就労目的だろう」としており、入学は在留資格の獲得が目的だった可能性もある。
アジア地域の農村部などの収入水準は依然として低く、日本で制限を超えてアルバイトすれば月30万円を稼げるケースもある。研究生の学費は年間約70万円だが、「学費を払っても働きたい留学生もいる」(同大教員)。男性も「多くの同級生が週28時間以上、アルバイトしている」と明かす。
1600人所在不明
東京福祉大では、研究生らの日本語能力や学ぶ意欲の低さも目立っていた。
同大教員によると、研究生の多くは、名前をカタカナで書けず、授業中にカードゲームで遊ぶなどしていた。55ある研究生クラスの6割は日常会話もできないレベルだった。
同大が昨年度に受け入れていた留学生は5133人で、早稲田大(5412人)に次ぐ多さ。しかし、東京福祉大は、留学生の8割を研究生ら非正規生が占めていた。大学設置基準には、研究生などの定員に上限がないことから、非正規生枠で留学生を集めていたとみられる。
研究生が15年度の39人から18年度には2656人へと急増する一方で、16〜18年度に1610人の留学生が所在不明となり、このうち、研究生は7割に上る。
ずさんな在籍管理、働きたい学生を引きつける
こうした現状は、東京福祉大に限らない。少子化で減る学生を留学生で補おうとする学校は珍しくない。
私立大の3分の1は定員割れし、学校経営が留学生頼みの大学や専門学校も少なくない。東京福祉大の18年度学費収入は86億9600万円で、研究生の受け入れ本格化前の15年度より20億円以上増えた。同大の研究生集めや甘い在籍管理などが、日本で働きたい留学生を引きつけた面もあるとみられる。
文部科学省では、所在不明の留学生が多数いる可能性のある他大学も調査する方針で、茨城県や福岡県の2大学への調査を表明している。
私立専門学校も状況は同じで、文科省の調査によると、101校で学生の9割以上を留学生が占め、45校は学生全員が留学生だった。
茨城県取手市の専門学校は、定員の3倍の留学生を受け入れ、多くは働くために来日していたという。学校も出席率を水増しした書類を入管に提出していた。
大阪市の観光系専門学校では昨夏、定員を大幅に超過してベトナム人留学生らを入学させ、100人以上が在留資格を更新できずに退学となる問題が発覚した。
日本人を対象に中国語の通訳などを養成するとして大阪府から認可されたが、学生の9割以上がベトナムやネパールなどからの留学生で、教育内容も漢字の読み書きなど初歩的な日本語が教えられていた程度という。
留学生の質向上、急務に
留学生の積極的な受け入れは、政府が08年、留学生を「20年までに30万人」とした計画から始まった。
日本学生支援機構によると、留学生は当時の約12万人から18年度は約30万人に増え、日本語学校で学ぶ留学生も9万人を超えた。
しかし、出入国在留管理庁によると、1月時点で4708人の留学生が不法残留しており、数も増加傾向にある。
留学生政策に詳しい東京工業大の佐藤由利子准教授によると、近年はベトナムやネパール、スリランカなどの留学生が増えている。「アルバイトをしながら学べる」とうたい、お金も学力もない留学生を集め、日本語学校に入学させる仲介業者もいるという。
佐藤准教授は、「在籍管理の徹底や教育内容などの外部チェック」の重要性を強調する一方、留学生の質向上のため「大学は学ぶ意欲や学力、経済力が一定水準にある留学生を受け入れるべきだ。仲介業者を管理する仕組みや、経済力がなくても意欲ある留学生向けの奨学金制度なども有効だ」と指摘する。
在留資格停止の新制度…法務・文科省、対策を強化
法務省では、問題発覚前から、東京福祉大の留学生の一部が不法残留だったことを把握していたが、文部科学省とは共有できておらず、対応の遅れにつながった。
両省では、在籍管理が不十分な大学の留学生に在留資格を与えないなどの新たな制度を導入した。
文科省は、大学に毎月求めていた除籍者や所在不明者の数の報告に加え、今年4月からは退学・除籍の理由と長期欠席者の報告も求めている。
同省は、不適切な在籍管理が続く大学を「在籍管理非適正大学」に認定。法務省に通告し、4月に新設された出入国在留管理庁が大学名を公表し、改善まで新規留学生への在留資格を与えない。
また、これまで法務省が不法残留者の多い大学を「慎重審査対象校」として留学生の在留資格審査を厳しくしてきたが、今後は、同庁が3年連続で認定すると留学生への資格付与を停止する。
専門学校も所管する都道府県を通じ同様の措置を徹底させる。