「なぜ」いじめ報告書、なお未公表 苦痛強いられる両親 長崎高2自殺
西日本新聞 2019/9/2(月) 11:27配信
2017年4月に2年だった男子生徒=当時(16)=が自殺した主要因を「いじめ」と結論付けた第三者委員会の調査報告書が公表されない事態が続いている。文部科学省はガイドラインで「特段の支障がなければ公表することが望ましい」としており、今年8月には県が学校側に公表を促した。それでも学校側の対応は変わらず、公表を望む両親は苦痛を強いられている。
7月、両親は私立学校を所管する県学事振興課に学校への指導を要請。これを受け、県は8月21日に報告書の公表を促す文書を出した。ただ、学校側の反応は「弁護士と話をする」というもので、どうなるかは不透明。「遺族がなぜこれほど頑張らなければならないのでしょうか…」。両親の表情は晴れない。
いじめと自殺の因果関係について遺族と学校側の考えが一致しない場合に第三者委が設けられ、公正中立な立場で自殺の背景を調べる。外部の弁護士や臨床心理士ら5人で構成した今回の第三者委は生徒や教職員に聞き取りを行い、昨年11月に報告書をまとめた。
公表を県が促した事例は「初めてのケースではないか」
ところが、学校側が「認定事実に問題がある」と、自らが設置した第三者委の結論に疑義を呈する異例の展開に。報告書が県に提出されたのは、取りまとめてから約7カ月後の今年6月と大幅に遅れた。
それでも学校側は報告書が間違っている、とのスタンスを変えておらず、公表にも及び腰。県内の学校が関係する自殺で第三者委の報告書の公表を県が促した事例は「初めてのケースではないか」(県学事振興課)という。
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報告書の公表を巡っては、14年1月に新上五島町の町立中3年の男子生徒=当時(15)=が自殺した問題でも、学校設置者の町と両親の認識の違いが鮮明になった。町は当初、ホームページで第三者委の報告書を公表したが、約3カ月後に削除した。
両親が町などを相手取った損害賠償請求は、いじめが自殺の原因となったこと、学校側が防止策を怠ったことを町が認めたことで和解が成立。両親が望んだ「再公表」も果たされた。ただ、公表に際して町は「事実の確認ができていない箇所が含まれています」との注記も付けた。両親は「第三者委を否定するような態度はおかしい」と、町の対応に疑問を投げ掛けている。
「若い命がいじめによって失われることがないように」両親の思い
今回の私立高のケースでは、そもそも自殺の原因がいじめだと学校側が認めていないことで、死亡見舞金の給付手続きにも支障が出た。災害共済給付制度を運営する日本スポーツ振興センターへの申請を学校側が応じず、「死亡から2年」の申請期限が迫った今年3月、遺族自身が申請を余儀なくされた。心理的な負担は計り知れない。
報告書の公表は、いじめの実態や学校の対応の経過を公にすることで、二度と自殺者を出さないよう教訓とする狙いがある。文科省のガイドラインも事案の重大性や被害者側の意向などを総合的に考慮した上で「適切な判断」をするよう定めている。
「若い命がいじめによって失われることがないよう、学校側は努力してほしい」。わが子の自殺から2年4カ月。両親の思いは届くのか。