甲南大生自殺 ハラスメント委の調査過程、客観性乏しく不透明のまま
毎日新聞 2020/4/6(月) 9:46配信
2018年に神戸市の甲南大2年だった男子学生が自殺した問題で、大学側は学内の「キャンパス・ハラスメント防止対応委員会」の調査過程の詳細を明らかにしておらず、遺族は納得していない。甲南大のハラスメント委とはどのような組織なのか。
大学がホームページで公開している規定によると、副学長▽学生部、学長室事務部、総務部の各部長▽学長が指名する専任教員――で構成。遺族によると、委員長を務めたのは中井伊都子副学長(当時)で、男子学生が直接聴取を受けた委員の教員3人の名前は分かるが、大学側から、他の委員の名前や委員会の開催回数などは知らされていない。
学生は、同委が設置した調査委の聞き取りに「(部長が他の部に出した入部拒否要請の)撤回文は名誉の回復にはなっていない。部に非があったことを完全に表にし、部が誤っていることを明らかに示してもらいたい」などと話していた。この訴えがどう受け止められたのかを詳しく検証しようにも、ハラスメント委の議事録は学生への聴取録を除き非公開で、他に聴取した学生や教職員の人数、肩書なども不明のままだ。
ハラスメント委の調査の客観性や中立性はどう担保されたのか。規定には「委員会が必要と認める時は、委員以外の外部専門家等を委員会に出席させることができる」とある。「外部専門家を委員会に出席させたのか」との毎日新聞の質問に大学を運営する学校法人は「出席していない」と回答。その理由は「審議の過程で外部専門家である弁護士に、随時、意見を求めていたから」と答えた。
ハラスメント委の調査の詳細を苦情の申立者が知ることはできるのか。苦情申立者に議事内容を開示するかについても毎日新聞が質問したところ、法人は「保護すべき個人情報が多く、開示できない」と答えた。
毎日新聞が、学生の苦情を審議したハラスメント委の委員の名前や肩書、委員数、議論の経過などを改めて質問したが、法人は「学内手続きの経緯詳細および特定の教職員・学生にかかる情報などについては答えを差し控える」として明らかにしなかった。
遺族は「息子の悲痛な状況が拡大していくのを無視した大学の対応そのものがハラスメントだ。大学が息子を自死に至らせた経緯が闇のままなのはおかしい」と批判する。
一方で、小中高生のいじめが原因と疑われる自殺や長期欠席の調査を巡っては、文部科学省のガイドラインが「公平・中立性が確保された組織が客観的な事実認定ができるよう構成すること」とし、弁護士や精神科医、学識経験者らで構成する第三者委を設置するよう教育委員会や学校法人などに求めている。実際に中立性を確保するために、学校側と被害者遺族側のそれぞれが推薦した団体から委員を選ぶなどの形式で設置された第三者委もある。
学校問題の被害者遺族でつくる「全国学校事故・事件を語る会」の内海千春代表世話人は「大学内で作られた調査組織は大学教授らが委員を務めるので、もっともらしく見える。しかし、外部の目が入っていなければ、組織防衛のために情報が操作される恐れがある。大学が『不適切な対応はしていない』と主張するのなら、十分な情報開示や外部の目を入れて検証するなど説明責任を果たすべきだ」と指摘する。【樋口岳大】
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甲南大生自殺 ハラスメント委の調査過程、客観性乏しく不透明のまま
毎日新聞 2020/4/6(月) 9:46配信
2018年に神戸市の甲南大2年だった男子学生が自殺した問題で、大学側は学内の「キャンパス・ハラスメント防止対応委員会」の調査過程の詳細を明らかにしておらず、遺族は納得していない。甲南大のハラスメント委とはどのような組織なのか。
大学がホームページで公開している規定によると、副学長▽学生部、学長室事務部、総務部の各部長▽学長が指名する専任教員――で構成。遺族によると、委員長を務めたのは中井伊都子副学長(当時)で、男子学生が直接聴取を受けた委員の教員3人の名前は分かるが、大学側から、他の委員の名前や委員会の開催回数などは知らされていない。
学生は、同委が設置した調査委の聞き取りに「(部長が他の部に出した入部拒否要請の)撤回文は名誉の回復にはなっていない。部に非があったことを完全に表にし、部が誤っていることを明らかに示してもらいたい」などと話していた。この訴えがどう受け止められたのかを詳しく検証しようにも、ハラスメント委の議事録は学生への聴取録を除き非公開で、他に聴取した学生や教職員の人数、肩書なども不明のままだ。
ハラスメント委の調査の客観性や中立性はどう担保されたのか。規定には「委員会が必要と認める時は、委員以外の外部専門家等を委員会に出席させることができる」とある。「外部専門家を委員会に出席させたのか」との毎日新聞の質問に大学を運営する学校法人は「出席していない」と回答。その理由は「審議の過程で外部専門家である弁護士に、随時、意見を求めていたから」と答えた。
ハラスメント委の調査の詳細を苦情の申立者が知ることはできるのか。苦情申立者に議事内容を開示するかについても毎日新聞が質問したところ、法人は「保護すべき個人情報が多く、開示できない」と答えた。
毎日新聞が、学生の苦情を審議したハラスメント委の委員の名前や肩書、委員数、議論の経過などを改めて質問したが、法人は「学内手続きの経緯詳細および特定の教職員・学生にかかる情報などについては答えを差し控える」として明らかにしなかった。
遺族は「息子の悲痛な状況が拡大していくのを無視した大学の対応そのものがハラスメントだ。大学が息子を自死に至らせた経緯が闇のままなのはおかしい」と批判する。
一方で、小中高生のいじめが原因と疑われる自殺や長期欠席の調査を巡っては、文部科学省のガイドラインが「公平・中立性が確保された組織が客観的な事実認定ができるよう構成すること」とし、弁護士や精神科医、学識経験者らで構成する第三者委を設置するよう教育委員会や学校法人などに求めている。実際に中立性を確保するために、学校側と被害者遺族側のそれぞれが推薦した団体から委員を選ぶなどの形式で設置された第三者委もある。
学校問題の被害者遺族でつくる「全国学校事故・事件を語る会」の内海千春代表世話人は「大学内で作られた調査組織は大学教授らが委員を務めるので、もっともらしく見える。しかし、外部の目が入っていなければ、組織防衛のために情報が操作される恐れがある。大学が『不適切な対応はしていない』と主張するのなら、十分な情報開示や外部の目を入れて検証するなど説明責任を果たすべきだ」と指摘する。【樋口岳大】
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神戸市の甲南大学2年だった男子学生が「学園祭の売上金を横領した」との誤った情報を拡散されたうえ、大学側の対応にも不満を抱き、2018年10月に自殺していたことが分かった。大学側に対応の検証を求める遺族側の代理人弁護士が10日、記者会見で明らかにした。
代理人弁護士や大学によると、学生は17年11月の学園祭で、所属する文化系クラブの模擬店で会計などを担当。翌年、当時の部長らにより、売上金の一部を横領したとの情報をSNSで広められ、強制退部となったという。
学生が大学に相談したところ、部長は横領の事実はなかったことを認め、学生に謝罪文を出したが、学生が求めた謝罪文の掲示などは実現しなかった。学生はキャンパス・ハラスメントを防止する大学の委員会に救済を求めたが、ハラスメントとは認められなかった。
学生は「(原因は)名誉毀損(きそん)による精神的ダメージ。甲南大の対応も遅く、私は限界となった」などとする遺書を残し自殺した。
遺族は「大学は本人から悲痛な訴えがあったにもかかわらず、被害回復のための適切な対応をとらなかった」とし、第三者委員会を設置して当時の対応を検証するよう求めたが、大学は応じていないという。
甲南大学は「一連の対応においては問題がなかったと考えているが、一人の学生の尊い命がなくなってしまったということについては誠に残念であり、悲しい」などとコメントしている。