京大、研究費9億円を返還 霊長類研の不正経理問題で

京大、研究費9億円を返還 霊長類研の不正経理問題で
産経新聞 2020/11/9(月) 18:58配信

 京都大霊長類研究所(愛知県犬山市)のチンパンジー飼育施設の整備工事をめぐり、公的研究費など約5億円が不正支出された問題で、研究費の一部を支給した独立行政法人「日本学術振興会」が京大に対して加算金を含めた約9億円の返還を求め、京大が全額返還していたことが9日、文部科学省への取材で分かった。京大は9月に返還していたが、公表はしていなかった。

 約9億円の返還請求は、研究費の管理・監査体制の強化を目指す文科省のガイドラインの運用が始まった平成26年度以降、最高額になるという。

 問題をめぐっては、京大が6月に学内調査の報告書を公表。元所長の松沢哲郎・特別教授(70)ら4人による架空取引や入札妨害などがあったとして、34件(計約5億670万円)の不正支出を認定した。

 文科省によると、日本学術振興会は京大に対し、約8億9633万円の返還を請求した。同振興会が支給した補助金計約4億7121万円に約4億円の加算金を計上した。研究費不正が発覚した場合、研究費の配分機関は大学などに対し、研究費の支給から返還までの期間の利息などを加算金に計上し返還を求めることができ、事実上の制裁となる。

 文科省も、報告書で不正支出が認定された別の補助金や交付金について返還請求額を算出しており、京大が支払う総額はさらに膨らむとみられる。

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京大、不適正経理を把握しながら公表せず 専門家「世間との問題意識にズレ」
産経新聞 2020/11/10(火) 12:13配信

 研究費不正に対する京都大の認識の甘さが改めて浮き彫りとなった。京大霊長類研究所の設備工事をめぐり、会計検査院が新たに指摘した不正支出は約6億円にのぼった。京大は学内調査の結果を発表した6月時点で新たな不正についても把握していたが、これまで公にすることはなく、金額は大幅にふくれあがった。研究費運用をめぐる京大の問題意識の低さが指摘されている。

 「当時の調査報告書は、学内規程の『競争的資金などの不正使用』に該当した契約のみを公表するものだった」。6月に約5億円の不正支出を認定した京大の調査結果について、大学担当者はこう釈明する。

 文部科学省などから研究費として配分される競争的資金について京大の学内規程では、「故意または重大な過失」で資金を不適切に運用した場合を「不正使用」と定める。京大は、元所長の松沢哲郎・特別教授らが関与した入札妨害や架空取引など28件がこの「不正使用」に当たると認定。不正支出された金額を算出し、規程に基づき公表したという。

 一方、会計検査院は京大が定める大学運営時の会計・財務に関する基準である会計規程に反する契約も不適正な支出と指摘。京大の調査結果に加え、新たに27件計6億2153万円の不正支出があったと公表した。京大はこれらの不正支出も「学内調査で存在は把握していた」とするものの、6月時点で公表しなかった理由を「(松沢氏ら)関係者の処分結果を受けて公表する予定だった」と述べるにとどまり、明確な理由は説明していない。

 会計検査院元局長で日本大の有川博・客員教授(公共政策)は「京大と世間とでは問題意識にズレがある。研究費不正を把握していながら、公表しなかった不誠実な対応と言わざるを得ない」と批判した上で、「京大としてどのような認識で不正を認定し、公表の有無を判断したのか、改めて説明すべきだ」とした。(桑村大)

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京大の研究費不正 チンパンジーの世界的権威 松沢哲郎特別教授
産経新聞 2020/11/10(火) 12:32配信

 松沢哲郎特別教授は、チンパンジー研究を通じて人間の認知や行動の起源を探り、「比較認知科学」と呼ばれる新しい研究分野を開拓。天才チンパンジー「アイ」の研究で知られる。

 昭和49年に京都大文学部哲学科を卒業。「サルが見る世界」を検証しようと、51年には京大霊長類研究所の助手としてチンパンジー研究を始めた。

 翌年、後に言葉や数字を理解するアイをパートナーに、チンパンジーの認知能力を探る研究をスタート。人間とチンパンジーが同じように色が見えることを発見するなど、数々の研究成果を発表してきた。平成28年に行われた定年退職時の最終講義では、自身の研究について「『人間とは何か』という問いに答えるために続けてきた」と語っている。

 18〜24年に霊長類研所長を務め、25年には人間の本性に迫る数多くの知見を生み出した功績が評価され、文化功労者に選ばれた。定年後も京大に在籍。ノーベル医学・生理学賞受賞者の本庶佑(ほんじょたすく)氏や、「数学のノーベル賞」と呼ばれるフィールズ賞を受賞した森重文氏ら4人しかいない高等研究院の特別教授に就任し、霊長類研の兼任教授も務めている。

 松沢氏を知る関係者は「分野を牽引(けんいん)してきた世界的権威で慕う研究者も多い。それだけに、学術界全体の信頼を損ねる巨額の研究費不正に関与したことは残念だ」と述べた。

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