【#許すなわいせつ教員】中学時代の「心の傷」破裂 私は性被害者だったんだ…

【#許すなわいせつ教員】中学時代の「心の傷」破裂 私は性被害者だったんだ…
読売新聞オンライン 2021/4/24(土) 17:03配信

 性的な被害は体にも心にも大きな傷として残る。それが子供の場合、その影響は甚大だ。被害がすぐには顕在化せず、「忘れよう」と蓋をしてきた記憶が大人になる過程で外れ、心の中で突然、よみがえるという。めまいや頭痛、極度の精神的な不安のほか、中には自傷行為を繰り返すケースもある

 中学校時代の教員からわいせつな行為を受け、その後、心的外傷後ストレス障害(PTSD)の症状に悩まされてきた関東地方の20歳代の女性は、今年から児童虐待などに対応する仕事に就いた。
 「子供の頃に受けた性被害で自分は大いに苦しんだ。同じように悩み、『心の傷』を持つ子供たちの手助けをしてあげたい」。女性はこう語り、現在は希望を持ち、仕事にまい進する。
 行為から数年がたった2018年頃は、わいせつ行為を受けたことを頻繁に思い出し、涙が止まらなくなり、過呼吸の症状に見舞われることが続いた。精神科を受診したところ、「うつ病と複雑性PTSD」との診断を受けた。それまで、もやもやしていたが、治療やカウンセリングを受け、「私は性暴力の被害者だったんだと、ようやく自覚した」と振り返る。

求められたメール交換 ハートの絵文字に違和感
 自然が豊かな西日本の町で女性は生まれ育った。中学時代は成績も良く、運動部の部長を務め、3年時担任の40歳代の男性教員からの信頼は厚かった。
 ある時、携帯電話の番号とメールアドレスの交換を持ちかけられ、戸惑いながらも応じた。その後、教員からはハートの絵文字付きのメールを受け取ることもあった。妻子ある年齢の離れた教員のため、違和感を持ちつつも軽い冗談だと受け止めていた。
 成績表には、教員から「学級役員に」という希望も書かれていた。高校への推薦入学も決まり、教員からの依頼で3学期は学級役員を務めた。卒業イベントの準備で、放課後に男性教員と作業をすることが増え、自宅まで徒歩で約40分かかるため、教員が車で送ってくれることもあった。女性の両親も「いい先生だね」と喜んでくれていたという。

撮られた写真の悪用、うわさを不安視 性被害言い出せず
 卒業間近の放課後、教員の車に乗せてもらったところ、見知らぬ場所で車が止まり、性的な暴行を受けた。女性はそれまで男性の体を見たことがなく、ぼう然となった。その後、自宅まで送ってくれたが、女性は親にも言えずに泣きじゃくった。
 高校進学後も関係は続いた。断ることができなかったのは、幼い頃から「先生には従うもの」と教えられていたからだ。携帯でわいせつな行為の写真を撮られ、会わなくなったらそれが悪用されるのではないかという不安もあった。地元で教員をしている親の評判を落としてしまうのではないかなど、様々な理由で苦しんだという。
 そうした悩みが心の中で抑えきれなくなったのか、高校3年のある日、教室で過呼吸を起こして保健室に運ばれた。そこで初めて、学校で生徒たちの相談に応じていた女性教員にこれまでの経緯を打ち明けたという。
 教育委員会は教員を懲戒免職処分とした。読売新聞の取材に教委は事実を認めつつも、担当者は「二次被害を防止する観点から、詳細は答えられない」とする。
 女性は「教員には自分がしたことの罪深さを知ってほしい。そして、狂ってしまった私の人生を返してほしい」との思いを今も抱える。

性被害は「魂の殺人」
 性暴力被害者らでつくる一般社団法人「スプリング」(東京)などは昨年夏、性被害者にアンケート調査を実施した。5899人から回答を得たところ、わいせつ行為を受け、それを性被害だったと認識できるまでには平均で6〜7年かかることがわかった。
 父親から、長年にわたって性暴力の被害を受けた経験を持つ山本潤代表は、「顔見知りからの性被害の場合は、被害だと認識するまでに長い時間がかかってしまう。心身の負担も大きく、事実として受け止めるには相当のエネルギーと時間が必要だということを広く知ってもらいたい」と語る。
 精神科医として性暴力の被害者を200人以上診療し、内閣府の「女性に対する暴力に関する専門調査会」で会長を務める小西聖子・武蔵野大教授によると、思春期の性暴力では、自分が被害に遭ったことを思い出さないように、記憶に蓋をする「回避」の傾向が強いという。
 回避しようとしても、本当に記憶をなくすことはできないため、いずれ無理が生じてフラッシュバックが起こり、PTSDの発症につながることもある。
 小西教授は「都市部では性被害の臨床にたけた専門医などもいるが、地方にはまだ少ない。幼少期に被害に気づくことができ、適切なカウンセリングや治療を受けることができる例は少ない。性被害は『魂の殺人』でもあり、その対策に国は本腰を入れてほしい」と指摘している。

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