教員による性被害「泣き寝入り防ぐ法整備を」…地位悪用の罰則や時効撤廃で法制審が議論
読売新聞オンライン 2021/9/25(土) 5:00配信
性犯罪に対処する法整備のあり方について、法制審議会(法相の諮問機関)が近く、本格的な議論を始める。教員らによる性暴力の被害者が強く実現を望むのが、地位や関係性を悪用した行為を取り締まる罪の創設や、撤廃を含む公訴時効の見直しだ。「泣き寝入りを防ぐ法整備を」。被害者らは議論の行方を注視している。(江原桂都、倉茂由美子)
「ばれないだろう」
「地位や力関係に乗じた行為は悪質だ。被害者は『自分が悪い』と思い込み、心に一生消えない深い傷を負う。『あなたは悪くない、悪いのは加害者だ』という法律にしてほしい」
女子生徒は当時、心療内科を受診し、教員への怒りと自責の念との葛藤を打ち明けていた。母親は取材に、やり場のない気持ちを改めて吐露するとともに、法制審の議論への願いを語った。
女子生徒は男性教員が副顧問を務める部活に所属し、始業前には複数の生徒と共に勉強の指導を受けていた。そのため、休日にドライブに誘われて抱きつかれたり、スカートの中に手を入れられたりするといった行為を繰り返されても、断りにくかったとみられる。
文部科学省によると、19年度にわいせつ行為で処分を受けた教員は174人に上る。このうち自校の児童生徒や卒業生など、18歳未満への行為で処分されたのは126人で7割強だった。
部活動のコーチという立場を悪用したとみられる事件も起きている。
被告は調べに対し、「教え子なら言わないだろう、ばれないだろうと高をくくって、繰り返しやった」と供述したという。
同校では部員14人が被告から被害を受けたと申告しており、「誘いを断ると練習やレギュラーから外される」と説明した部員もいた。
被害認識に6〜7年
性犯罪では公訴時効の期間も課題となっている。
現在は強制性交罪が10年、強制わいせつ罪が7年だが、性暴力被害者らでつくる一般社団法人「スプリング」(東京)などが昨年、被害者を対象に実施したアンケート調査(回答者数約6000人)によると、わいせつ行為を受けたことを被害だと認識するまで、平均で6〜7年かかっていた。
記憶を封印しようとすることで心理的に無理が生じ、心的外傷後ストレス障害(PTSD)を発症して被害を申告することすらできなくなるケースもある。
写真家の石田郁子さん(44)が、中学時代に男性教員(今年1月に懲戒免職)から性暴力を受けたと訴えることができたのは、20年以上たってから。石田さんは「先生が悪いことをするはずがないと思っていたが、(性暴力だったと)37歳で気付いた」と振り返る。
被害者支援に長年携わる公認心理師の斎藤梓氏は「関係性や相手の地位自体が抵抗を抑圧するという現状が見過ごされてきた」と指摘。「被害を認識し、加害者の影響から抜け出して相談できる頃には時効を迎えてしまう例をたくさん見てきた。被害者の実態に即した法整備が必要だ」と話す。