「パソコンで自作」「知人に借りてコピー」教員免許状の偽造、後絶たず…様式まちまち判別困難

「パソコンで自作」「知人に借りてコピー」教員免許状の偽造、後絶たず…様式まちまち判別困難
読売新聞オンライン 2022/8/23(火) 19:23配信

 教員免許状の偽造が後を絶たない。文部科学省は採用時の原本確認を求めるが、紙幣の透かしのような対策はない上、様式が都道府県によって異なり、見抜くのは容易ではない。7月で10年ごとの免許更新制が廃止されて無期限となり、採用時のチェックの重要性が増す中、専門家は、免許番号を照合できるデータベース「教員免許管理システム」の有効活用を求める。(長沢勇貴、浜崎春香)

「必要な単位が取れなかった」

 「自分が(子どもたちと)関わっていいのかと常に思っていた」。教員免許状を偽造し、2年8か月間教壇に立っていた男(27)は、地裁の公判での被告人質問でそう心情を語り、信頼を裏切ったとして教え子らに謝罪した。

 判決によると、男は2018年、県内の特別支援学校に非常勤講師として任用される際、特別支援学校と小中学校の教員免許状をインターネットカフェのパソコンで偽造し、その場で印刷。京都府教委の公印に似た印鑑を用意し、特別支援学校に提出した。

 男は公判で、「大学で免許取得に必要な単位が取れなかった」と説明。「京都府教育委員会」の角印の作製を業者に依頼したが断られたため、字面の似た「京都府教育学員会」の印を作ってもらったとした。免許状の様式をネットで探し出して作成したことも明らかになった。

 男は今年5月、を受け、確定した。

管理システム

 教員免許状の偽造は教育の質に直結する恐れがあることから、文科省は18年、都道府県教委に採用時に免許状の原本を確認するよう通知した。しかし、ある県の担当者は「様式は都道府県ごとにまちまちで、免許状が正しいかどうかを見た目で確認するのは難しい」と漏らす。

 偽造を見抜くのに威力を発揮しているのが、教員免許管理システムだ。

 福井の事例では、通常は年度末の免許状の有効期限が「9月30日」と記載され、不審に思った県教委職員がシステムで照会して明らかになった。県教委は再発防止のため、すべての免許を採用時にシステムで照合することにした。

 大阪府では14年、が発覚した。更新講習が終わったと申告してきた男性の免許情報がシステムで確認できなかったことがきっかけだった。

 、でもパソコンでの偽造が明らかになったが、両県は採用時にシステムでの照合をしており、採用段階で防ぐことができた。

照合進まず

 しかし、システムの活用は十分に広がっていない。

 システムの導入は更新時期の確認が目的で、文科省は免許番号の照合について「必要に応じて使う」とするにとどめ、偽造を見抜く目的での活用は求めていない。教員の負担軽減などのため更新制は7月に廃止されたが、システムの活用方法は見直されていない。

 読売新聞が7月下旬までに関西の6府県教委に取材したところ、採用した全員の免許をシステムで照合しているのは京都府のみだった。照合していないある自治体の担当者は「偽造されるという前提で対応していない。全員を照合すれば膨大な手間がかかる」としつつ、「子どもたちのためにも、活用を検討しないといけない」と話す。

 教員免許の制度に詳しい岩田康之・東京学芸大教授(教育学)の話「更新制がなくなり、採用時の確認の徹底が欠かせない。都道府県ごとに書式が異なるため、免許番号での管理は効果的で、教育の質を担保し、子どもたちに不利益が生じないよう、せっかくの教員免許管理システムを生かすべきだ」

 ◆教員免許管理システム=2009年度に教員免許の更新講習を10年ごとに課す制度が始まった際、文部科学省が各教員の更新時期の確認を目的に導入した。免許が付与された人の氏名、免許番号などが登録されている。各都道府県教委の端末から接続すると、教員が提示した免許状の情報が正しいか照合できる。

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