「犯罪歴を調べる術がない」保育・教育現場で相次ぐ性被害…「無犯罪証明書」“日本版DBS”制度を求める声の高まり

「犯罪歴を調べる術がない」保育・教育現場で相次ぐ性被害…「無犯罪証明書」“日本版DBS”制度を求める声の高まり
TBS NEWS DIG Powered by JNN 2022/9/4(日) 9:01配信

「ぼくが事件にあってから数年がたちました。自分の家なのに今もトイレに行くのがつらいです」

法廷で、被害にあった男の子の悲痛な心情が読み上げられた。卑劣な犯行に及んだのは、本来子どもを守るべき立場のベビーシッターの男だった。子どもたちを性被害から守るためにどうすればよいのか。保育や教育の現場では犯罪歴を証明する制度「日本版DBS」の導入を求める声が高まっている。

■「いまでも怖くなる」男児20人に性的暴行などで懲役20年 シッターと親結んだ“マッチングアプリ”

はベビーシッターの派遣先や、ボランティアとして参加したキャンプ場などで男の子に対し性的暴行を加えた強制性交や強制わいせつの罪などに問われた。被害にあったのは当時5歳から11歳までの男の子20人だ。

7月に開かれた裁判では、代理人弁護士が被害者の意見陳述を読み上げた。
ある男の子は寝ていた午前3時頃に橋本被告に起こされ、トイレに連れていかれ被害にあった。

被害にあった男の子
「事件にあってから数日間とにかく苦しかった。深夜に目を覚ますといまでも怖くなる。トイレで事件が起きたので、今も深夜に起きてトイレに行くのがつらいです。自分の家なのに」

・強制性交の罪で22件
・強制わいせつの罪で14件
・児童ポルノ禁止法違反の罪で20件

起訴された56の事件すべてが有罪とされた。

東京地裁は判決で「犯行は、信頼される立場を利用し、被害者の性的知識の未熟さにつけ込んだ悪質なもの」と厳しく非難し、懲役20年を言い渡した。
橋本被告が登録していたのは、親とシッターをつなぐマッチングアプリ「キッズライン」だった。

■シッターからの性被害 被害女児の母親「心の傷は目に見えない」

「キッズライン」をめぐっては、そのシッターから被害を受けた女の子の母親がJNNの取材に応じた。

おととし、コロナによる初めての緊急事態宣言で保育園が休園。5歳の長女と1歳の次女を抱えてテレワークをしなければならず、シッターに頼らざるを得なかった。当初女性のシッターを探していたがなかなか見つからず、頼むことができたのは男性のシッターだった。

当時5歳の娘が性被害にあった母親
「男性だからという理由でお断りするのは失礼だと思った。心配はあったが、長女の保育園の担任が男性で、男性の保育士にも慣れていた。公園で2人の娘と遊んでもらう時にも、体力面で女性より男性の方がいいのかなとも思った」

ある日、いつものようにシッターが娘2人を連れて公園へ。ところが、長女がシッターより先に走って自宅に戻ってきて…

当時5歳の娘が性被害にあった母親
「娘が全然面白くなかったと怒って帰ってきた。理由を聞き出そうとしても答えてくれず、シッターさんにちょっとしたことで怒られて機嫌が悪くなったのかなと考えていた」

10回ほど依頼した後、キッズライン側から突然「仲介できなくなった」と連絡が入った。娘に「あの先生来られなくなっちゃったよ」と告げると…

当時5歳の娘が性被害にあった母親
「顔がすごく明るくなって、『あぁよかった』と言ったので、これは絶対に何かあったなと思って。『もしかしてお股を触られたりされた?』と聞いたら、『うん』と答えてくれた」

公園や、母親がテレワークをしている隣の部屋で、娘が毎回下半身を触られていたことが分かった。

当時5歳の娘が性被害にあった母親
「娘は恥ずかしくて言えなかったんだろうと思う。心の傷は目に見えない。もし事件が発覚せず、被害に気づかないまま、家に来てもらう度に『ありがとうございました』とお礼を言っていたかもしれないと思うと本当に恐ろしい」

■「本当に残念」相次ぐわいせつ事件に困惑する男性ベビーシッターたち

一般の男性シッターたちは困惑を隠せない。

30代の男性ベビーシッター
「ニュースを見たときは本当に残念だった。一部の人によって男性保育士全体の印象も変わってくるし、世間で男性の保育士はこうだという印象に繋がってしまったのではないかと不安」

ベビーシッターの研修などを行うNPO法人「日本ホームチャイルドケア協会」は事件の後に「性教育」の研修を始めた。

NPO法人 参納初夏代表
「入浴のとき、どんなことに気を付けている?」

30代の男性ベビーシッター
「男の子だと下半身丸出しでふざけてしまうこともあるので、タオルをかぶせたり、早く着替えるように促したり。落ち着いて伝えるようにしている」

水着で隠れる部分「プライベートゾーン」に触れないよう、ガーゼで子どもの体を洗うなど気を配っているという。

■子どもへの性被害を防ぐために…求められる「日本版DBS」とは?

相次いだわいせつ事件を受けて、性被害を防ぐ取り組みも進んだ。
今年6月に改正児童福祉法が成立し、わいせつ行為を理由に登録を取り消された保育士について“再登録”が厳格化されたのだ。これまでは刑の終了から2年過ぎれば再登録ができたが、禁錮以上の刑で最長10年に延長された。
ただ「子どもたちを守るために、今の制度ではまだ不十分だ」とNPO法人の参納初夏代表は話す。

NPO法人 参納初夏代表
「“職業の選択の自由”も人権では大切だと思う。ただ、子どもたちのことを考えると、性犯罪の加害者が10年で保育の現場に戻ってきて、何もチェックする機能がないのは問題ではないか」

子どもへの性犯罪は再犯率が高いと言われている。イギリスでは、子どもと接する職場に就く際に、過去に性犯罪に関わっていないことを示す「無犯罪証明書」を雇う側に提出することを義務付けている。「DBS(Disclosure and Barring Service:前歴開示及び前歴者就業制限機構)」と呼ばれる制度だ。

現在の日本では、こうした仕組みはない。参納代表は、子どもと接する職業に就く際に犯罪歴がない「無犯罪証明書」の提出を義務付ける「日本版DBS」制度の導入を求めている。

NPO法人 参納初夏代表
「派遣会社はシッターを雇う際にその人の犯罪歴があるかどうか調べようがなく、保護者が個人のシッターを利用するときにも犯罪歴を調べる術がない」

娘がシッターから性被害にあった母親も「日本版DBSのような制度があれば、少しでも再犯を食い止めることができるかもしれない」と期待する。

当時5歳の娘が性被害にあった母親
「今後、娘のような被害者が生まれないように、仕組みを変えていかなくては」

母親は、「被害者の親だからこそ声を上げなければいけないと思った」と取材に応じてくれた理由を語った。子どもたちを性被害から守るために、仕組み作りが急がれている。

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