女子生徒と親密、自殺未遂に追い込んだ元教諭に解決金500万円の負担要求へ…大分県教委
読売新聞オンライン 2022/11/18(金) 11:00配信
大分県立高の元男性教諭(36)(懲戒免職)が女子生徒(20)と親密な関係になって自殺未遂に追い込んだとして、生徒側が県に損害賠償を求めた訴訟の和解を受け、県が支払った解決金500万円について、県教育委員会が元教諭に負担を求める「求償権」を行使する方向で調整していることがわかった。
訴状によると、元教諭は2018年10月頃、生徒と親密な関係になった。その後、生徒は別れようとしたが元教諭に応じてもらえず、精神的に追い詰められて19年1月に自殺を図ったとしている。現在も入院中で、昏睡(こんすい)状態が続いているという。生徒と母親は、県に対して約1億3000万円の損害賠償を求める訴訟を大分地裁に起こし、10月12日に和解が成立した。
わいせつ行為で処分される教員が後を絶たない。担任でありながら教え子と性的な関係を持った教員は、「別れたい」という女子生徒からの相談に耳を傾けずに関係を続けた。悩んだ女子生徒は自殺未遂をして、今も意識不明だ。性暴力は「魂の殺人」と言われ、被害者たちは心に大きな傷を負う。教員と教え子という関係に悩み、命を絶とうとした生徒とその家族の「癒えぬ心」を報告する。
<ママ、今どんな表情をしていますか><こんなダメな私でごめんなさい>。2019年1月、大分県立高校の2年生だった女子生徒(19)は、母親宛ての遺書を残して自殺を図った。命はとりとめたが、今も意識不明の状態が続く。なぜこんなことを――。手がかりを探し求めた母親は、娘のスマホに残るメッセージを読んで驚がくする。そこには、信頼していた男性教員からの信じられない誘いの言葉が残っていた。
目を疑うメッセージ
女子生徒が高校に入学したのは17年の春。母親によると、当時、動悸(どうき)やめまいに悩まされていた女子生徒を気にかけ、すぐに教室から出られるように出入り口近くに席を配置してくれたのが、1年の担任だった男性教員(30歳代)だった。この男性教員は妻帯者だった。
2年に進級した18年夏、女子生徒は体調を崩して入院した。男性教員はすでに担任を外れていたが、入院先に見舞いに訪れた。
後に母親が娘のスマホから見つけ出すことになる無料通信アプリ「LINE」のやりとりによると、この頃から親密な関係が始まったようだ。男性教員からは目を疑うようなメッセージが送られていた。
『今日、おれの家に泊まれる?』『しようよ〜〜』
「娘のことを心配してくれる、良い先生だと思い込んでいた。まさかこんなことが起きていたとは」。シングルマザーとして女子生徒を育ててきた母親は、衝撃と憤りで声を震わせた。
関係の継続求める教員
その年の秋になると、女子生徒は何度も、『元の関係に戻りませんか』『先生がしんどいかはわかんないけど、私はしんどい』と、関係を断ち切ろうとするメッセージを送っている。
にもかかわらず、男性教員は『おれはずっと、恋人でいたいよ』などと、関係の継続を求めた。
女子生徒が母親宛ての遺書を自室の机に残して、自殺を図ったのは年が明けた19年1月17日の夕方。この直前、男性教員は女子生徒と2人きりで会っていた。その後、仕事から帰宅した母親が、自室でぐったりしている娘の姿を見つけ、女子生徒は救急搬送された。
募る母の「なぜ」
「なぜ娘は死のうとしたのか。あの日、2人の間で一体何が起きたのか」
自殺企図から数か月後。母親は娘との関係を問いただすために、男性教員のもとを訪ねた。「LINEを見ました」と伝えると、男性教員は「一線を越えていました」と声を絞り出したという。
19年7月、男性教員は女子生徒と性的関係を持ったとして懲戒免職処分となり、その後、県青少年健全育成条例違反で大分県警から書類送検され、罰金30万円の略式命令を受けた。
ただ、県から十分な説明はなく、母親は20年1月、「教師の立場を利用し、性的関係を持って自殺未遂に追い詰めた」として県に約1億3000万円の損害賠償を求める裁判を起こした。
県側は提出した書面で「教員の私的な行為で、学校側に監督責任はない」「性行為は強要ではなく合意の下で行われ、不法行為ではない」と主張。「女子生徒が自殺を図った理由は個人的な問題で、男性教員や学校が対応すべき問題ではない」とも主張して、争う姿勢を示している。
男性教員「何も話せない」
裁判では県側の証拠から、女子生徒が自殺を図る2日前のやりとりも、新たに判明した。「もう別れて欲しい。大好きで離れたくないんだけど、そうすべきだって、先生も薄々気づいているでしょ」「最近私死ぬことしか考えてない」
2年以上がたった今も、女子生徒の意識が回復する見込みはない。人工呼吸器につながれ、母親が手を握っても反応はない。
「男性教員と関係を持ってしまったことに苦しみ、死を選ぶしかないと思い詰めたのではないか」。母親はそう語り、唇をかんだ。
懲戒免職となった元教員の男性は4月上旬、読売新聞の取材に対し、「何も話せない」と答えた。
見抜きにくい性被害
児童精神科医で、兵庫県こころのケアセンターの亀岡智美副センター長は「一般論」と前置きした上で、「性被害は心的外傷の中でも特に深い。信頼する人から受ける性被害は『裏切られた』という思いも重なり、より深刻だ。子供は親に心配をかけまいと隠すことが多く、親が性被害を見抜くことは難しい。本人が被害を打ち明けられるよう、周りの大人は変化を見逃さないよう注意が必要だ。子供が被害を打ち明けてくれたら、過小評価せず、まずはしっかりと受け止めてあげることが大切だ」と話す。
大分県内の県立高校に勤務していた元男性教諭(33)=2019年7月に懲戒免職処分=が教え子の女子生徒(18)にみだらな行為をし、関係に悩んでいた女子生徒が自殺を図り重度の意識障害を負っていることが判明した。保護者は県を相手取り、今年1月14日付で総額約1億3000万円の損害賠償を求める訴えを大分地裁に起こした。
担任だった元教諭の行為は女子生徒の自殺未遂で発覚したが、県教委は19年7月の処分発表時に自殺未遂については伏せていた。県教委は「因果関係が分からず、生徒の個人情報に関わるので公表しなかった」と説明している。
訴状などによると、元教諭は18年10月以降、女子生徒と県内のホテルなどで複数回にわたってみだらな行為をした。元教諭には妻子がおり、女子生徒は、スマートフォンの無料通信アプリ「LINE(ライン)」で「やっぱり、恋人やめよう」「しばらく会うのやめませんか」と再三別れを切り出していたが、元教諭は「ずっと恋人でいたいよ」などと返信して関係を続けていた。
女子生徒は19年1月、自宅で首をつって自殺を図った。直前に元教諭は進路関係の資料を持って自宅を訪問していたという。LINEを確認した保護者が元教諭に問い合わせて問題が発覚した。県教委は教員と生徒間のソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)などでの連絡を禁止しているが、元教諭は「SNSでやりとりするうちに親密になった」と県教委に話したという。
女子生徒は低酸素脳症などで昏睡(こんすい)状態が続いており、保護者は訴状で「教師の立場を利用して未成年と関係を持ち、自殺未遂に至るまで精神的に追い詰めた」とし、後遺障害の慰謝料や治療費などを県に対し求めている。保護者の代理人弁護士は「学校側は責任を否定し、防止策も講じなかった。こういうことを二度と起こさないよう、学校の責任を明らかにする」としている。
女子生徒の母親(44)は14日、毎日新聞などの取材に応じ「処罰して終わりというのは、娘のことをばかにしている。娘にはもう話が聞けないので、裁判で元教諭から真実を聞きたい」と涙ながらに語った。女子生徒は、植物を研究するため農学部のある大学を目指していたといい、自殺未遂を公表しなかった県教委に対して「娘が話せないことを利用して事案を軽く見ている」と憤った。
元教諭は19年12月、県警から県青少年健全育成条例違反(淫行(いんこう))の疑いで大分地検に書類送検され、今年1月、罰金30万円の略式命令を受けた。【尾形有菜、河慧琳、白川徹】