特殊詐欺事件、狙われるネットバンキング ATMより上限額高く

特殊詐欺の2024年の被害額が10年ぶりに過去最悪となり、警察庁は「極めて深刻な状況」と危機感を強めている。増加の背景には、利便性が高いとされるインターネットバンキングの危険性があった。 特殊詐欺は00年代前半に被害が急拡大した。法整備などで携帯電話や預貯金口座の不正利用の防止策を強化し、09年には被害額が100億円を切った。だがその後も毎年のように新しい手口が横行。増加が続く時期もあり、警察はそのたびに対策を講じた。 そして、24年の増加の要因の一つには、インターネットバンキングの送金の上限額の高さがあるとみられている。 警察庁が、被害額が500万円以上で、金融機関に現金を振り込んだ被害の1688件(暫定値)を分析すると、1件当たりの被害額はネットバンキング利用が2070万円で、それ以外より526万円多かった。 被害者の7割がネットバンキングの設定をした口座を持っており、それを使ってだまし取られた。犯人側の指示を受けて口座を開設したり、個人情報を得た犯人側が代わりに口座を開いたりすることもあった。 警察庁によると、振り込みの1日の上限額は、銀行の現金自動受払機(ATM)は100万円や150万円が多い。一方で、ネットバンキングは初期設定が低くても、インターネット上の手続きで1000万円程度まで上げられる金融機関が多く、被害額が膨らんだケースがあるとみられる。 またネットバンキングでは、送金の際に金融機関の職員らと接する機会がなく、他の人から詐欺だと指摘されづらい点もある。 対策として警察庁は、金融機関からの注意喚起を徹底するよう働きかけることを検討している。口座開設の際には金融機関が利用者に、悪用が増えている状況を伝えたり、誰かに指示されていないかを確認したりしてほしいという。 送金の上限額の引き上げに関しては、変更申請の1~2日後からの運用にしてもらいたい考え。タイムラグを設け、その間に利用者がだまされていると気づけば、被害防止につながる。 ◇「検事に頼めば優先して捜査」 このほかにも、被害額の増加には手口の巧妙化が関係している。増加する手口としては、警察官を装ったうその電話があげられる。 ネットバンキングに限らず「あなたの口座が悪用されている」と電話して、無料通信アプリ「LINE(ライン)」などに誘導。偽の警察手帳や逮捕状を提示し、「検事に頼めば優先して捜査してくれる」と説明をして「資産の確認が必要」と求め、現金を送金させる。高齢者ばかりではなく、30~50代の被害もあるといい、警察庁は注意を呼びかけている。 警察は特殊詐欺に「匿名・流動型犯罪グループ(トクリュウ)」が関与しているとみる。捜査の効率化に向け、他の警察本部から依頼を受けて捜査する「特殊詐欺連合捜査班」を24年4月に発足させた。12月までの9カ月間で、特殊詐欺など3567件の捜査依頼を受け、うち322件で容疑者の摘発に至った。 また金融機関との連携を強化。警察庁は今年1月にゆうちょ銀行と協定を結び、詐欺被害や不正利用が疑われる口座情報を即座に都道府県警に連絡する取り組みを始めた。他の金融機関とも連携を進めたい考え。【山崎征克】

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする