49年間隠れ続けた彼は、なぜ最後の最後に自ら名乗ったのか? "元テロリスト"桐島聡の輪郭を元日本赤軍のメンバーである足立正生監督の調査と想像力で描き出したのが映画『逃走』だ。監督は連続企業爆破事件の指名手配犯・桐島が抱いたであろう「切なさ」について語った――。 * * * ■自分の名前を明かした意味 ――今回、桐島聡の映画を撮ろうと思った動機は? 足立正生(以下、足立) まず、彼が本名を名乗ったっていうニュースが流れたとき、かなり驚いた。「逃走」を貫徹するなら、人知れず山奥で白骨死体になればいいはずなんだけど、彼はそうしなかった。 その理由を考えてみたら、彼は自分が「逃走」することによって「闘争」を続けていたというメッセージを発したんじゃないかと思ったんですね。つまり"表現"なんだ。だからこれは映画でしか表せないなと考えていたら、私の前作もプロデュースした平野悠(ライブハウス「ロフト」創業者)から電話があって、「やるでしょ?」と。 それが去年の2月頭の話。ほんとはもっと早く公開したかったんだけどね、コロナ明けでスタッフがすぐに集まらなかった。 ――前作『REVOLUTION +1』も、安倍晋三銃撃事件の犯人・山上徹也を描いた映画でした。 足立 その映画は上映会に街宣車が抗議しに来るなど、いろいろ面倒なことがあった。今回は人を殺すような話ではないからね。彼の逃亡生活と、死ぬまでを描いている。 ――映画を作るに当たって、どのように彼の足跡をたどったんですか? 足立 ラッキーなことに、桐島が潜伏していた藤沢市(神奈川県)の生まれで、桐島と飲んだりしていた人の協力を得ることができた。それで彼が住み込みで働いていた土木会社のアパートや、よく通っていたライブバー、風呂屋などを取材できた。 ただ、私の映画の場合はリアリズムにこだわらないから。脚本を何度も書き直して、日常のリアリティよりも、彼の心の中にある「切なさ」をすくい取るような映画にしました。 ――桐島の「切なさ」とは?