長崎県北松佐々町発注の公共工事の入札を巡る官製談合事件で、町長の古庄剛容疑者(77)ら3人が官製談合防止法違反(入札妨害)などの疑いで逮捕され15日で1週間になる。「氷山の一角か」。地元の建設業者からそんな声も聞こえる中、県警は価格漏えいの過程や3人のつながりなど実態解明を進めている。トップの突然の逮捕に町政は停滞。町政関係者は、既に決まっていた日程より早まりそうな町長選を見据えて水面下でうごめき始めた。 町発注の入札に参加する地元建設会社の事務所。いすに腰を掛けた社長は、あきれ顔で口を開いた。「不正をなくすためにあるのが入札制度。悪いことをやったのだから自業自得だろう。氷山の一角か、ここ(1社)だけで終わる話なのか分からないけど」。口調は次第に熱を帯び、「仲良しこよしでやるような仕事じゃない。ほとぼりが冷めたらまたやるのではないか」と懐疑的に語った。 県警や町によると、今回問題となった入札の最低制限価格は入札の1時間前、町長室で町長と担当課長、課長補佐の3人で決定。古庄容疑者が1人だった入札までの約45分の間に、同町の元会社員、山口情二容疑者(62)に最低制限価格に近い金額を漏らし、同町の木田栄三容疑者(53)の会社「山龍」に最低制限価格に近い価格で落札させた疑いが持たれている。 町長から得た情報を落札業者に漏らしたとされる山口容疑者は、県北地区にある建設会社の元幹部社員。地元の複数の建設業者によると、業界内で顔が広く、「いろんな会社とつながりがある」という人物像が浮かび上がった。 県警は、現時点で「町長が落札業者を把握していなかった」という可能性を否定していない。古庄、山口両容疑者が絡んだ同様の容疑が他にないかも含め、慎重に調べている。 関係者によると、古庄容疑者は町民への謝罪の気持ちと辞職の意向を示し、私利私欲は一切ないとの趣旨を語っているという。県警は3人の認否を明らかにしていない。金品の授受がなかったかなど、贈収賄の可能性も視野に捜査を進めている。 逮捕翌日の町役場。町は緊急の課長会を開き、金額が漏れないよう当面の入札制度を見直すことを決めた。迅速な対応に見えるが、庁内には「官製談合が常態化していたとすれば、正常な入札になった場合、業者側の積算能力は大丈夫なのか」「不落が続く事態にならないか」と不安視する声も。新しい入札制度を作り上げるのは新町長就任後となり「しばらくは不安定な状態が続く」と職員の1人はうなだれる。 「4月22日告示、同27日投開票」。古庄容疑者の辞職を見据え、職員や議員の間では早くも、町長選(6月10日告示、同15日投開票)の具体的な前倒し日程案が飛び交っている。5月上旬には新庁舎の供用開始を控えており「新庁舎と新しいトップで新生佐々町を演出したい」(町関係者)との思惑も透ける。 町長選には事件前から元町議1人が出馬の意向を示している。庁内には「町を立て直すために出てくれないか」と関係者から出馬を促されている幹部もおり、一部には中村義治副町長の名前も挙がっている。